中小企業診断士の試験制度を見直すべき

先週に続いて中小企業診断士(以下「診断士」)に関する話題。今週は、試験制度について考えてみたい。

診断士になるには、1次試験・2次試験に合格し、実務補修(15日以上中小企業で診断実務経験を積む)を受講する必要がある。昨年の1次試験の合格率は27.5%、2次試験は18.7%であった。ストレートで合格するのは、単純計算で5%である。

近年の資格ブームやリスキリングで受験者数が増えた一方、合格率は低く、狭き門になっている。結果的に、優秀な社会人が受験予備校に大金を払って、数千時間・数年間に及ぶ受験勉強をしてようやく合格するという難関資格になっている。ちなみに合格者をあまり増やしていないのは、実務補修に物理的な受け入れの限界があるからだろう。

診断士には2つの側面がある。一つは、名称の通り、中小企業の発展のために公的支援を担うコンサルタントの資格という側面である。公式の側面だ。もう一つは、社会人が企業経営について学ぶ自己啓発のための資格という側面である。こちらは非公式の側面だが、コンサルタントとして独立開業するのは少数で、こちらの側面の方が重要かもしれない。

コンサルタントにとっては、1次・2次試験のために机上の空論を学んでも実務では役に立たない。実務補修もマイナスにはならないという程度だ。大半の社会人にとっては、1次・2次試験は内容がマニアックかつ高度すぎて、自己啓発としては“やりすぎ感”が強い。実務補修は単なる時間の無駄だ。

つまり、現在の試験制度は、コンサルタントにも社会人にもプラスにならず、受験予備校を高笑いさせているだけだ。試験制度の見直しが必要だ。

では、どうすれば良いか。まったくの私案だが、以下2つの改革を考えている。

    1次試験の難易度を下げて、数百時間の学習で合格できるようにする。合格者を「中小企業診断士補」とする。

    2試験と実務補修を廃止し、代わりに1次試験合格者に中小企業診断士養成課程(以下「養成課程」)の受講を義務付ける。養成課程を修了した者を「中小企業診断士」とする。

少し補足しよう。まず①は、より多くの社会人に企業経営を学んでもらうためのものだ。民間企業が従業員を管理職に登用する際に「中小企業診断士補」の取得を条件の1つにするようになれば、日本のビジネスパーソンの経営管理能力は大いにレベルアップするだろう。

②の中小企業診断士養成課程というのは、中小企業大学校・法政大学・東洋大学など全国15の組織に設置されている半年から1年のプログラムである。これを義務付けることによって、コンサルタントとしての実務能力を高めたいというニーズにも応えることができる。

この提案を実現するためには、いくつかのハードルがある。とくに②養成課程の義務付けには以下のように課題が多い。

ü  養成課程は、学費が138312万円と高く(専門実践教育訓練給付金の対象プログラムでは実質負担は半減するが)、半年から1年という時間もかかり、負担が大きい。

ü  現在、養成課程は大都市圏にしかない。地方に住む資格取得希望者を切り捨てることにならないか。

ü  現在、養成課程では、入学者のほぼ100%が修了し、診断士になっている。大金を払って入学した受講者を成績不振でも簡単に退学処分にできるか(日本の大学と同じ問題)。

ということで、突っ込みどころが満載なのは自覚している。ただ、突っ込む人には、「じゃあ、他にもっと良い改革プランがあるんですか?」とお聞きしたい。上に挙げた問題点は、国が本腰を入れて取り組めば十分に解決することが可能だと思う。

 優秀な社会人が、役に立たない診断士の受験勉強に何年も費やすというのは、大袈裟に言うと国家的な損失である。試験制度の改革に向けて動き出すことを期待したい。

 

(2025年4月21日、日沖健)