国民民主党など一部の野党が物価高対策の一環として主張する食料品を対象にした消費税減税を主張している。それに対し石破茂首相は4月1日の記者会見で、減税に否定的な考えを示した。
夏の参院選を控えて流動的な政治情勢で、消費税減税が実現するかどうか不透明であるが、ここでは、もし実現したら国民生活にどういう影響があるのか確認しよう。
消費税減税の影響は、短期と中長期で分けて考える必要がある。まず短期的には、消費税を下げた分だけ食料品の物価が確実に下がる。それによって消費が増え、経済が活性化するだろう。世論の通り良いことづくめで、「どうしてさっさとやらないの?」という話だ。
ただ、中長期的な影響は不透明だ。国民が歓喜して消費を長期的に拡大し続けるのか大いに疑問だが、ここでは、個人的に気になっている国債の格付けについて考えてみたい。
IMFによると、日本の債務残高のGDP比は250%超と世界最悪の水準にある。現在、主要な格付け会社の日本国債の格付けはシングルAで、主要7カ国(G7)でイタリアに次いで低い。
世界最悪の財政状態なのに何とかシングルAを保っているのは、日本では消費税率が諸外国に比べて低く、将来の増税の余地が大きいからだとされる。将来の増税を前提にした高い格付けなのだ。
大手格付け会社は、かねてから日本の財政に警鐘を鳴らしてきた。昨年から野党が減税や財政支出の拡大を求めるなか、財政悪化を懸念する債券市場関係者の声が増えている。
この状況で、当然の前提である消費税増税どころか逆に減税するとなると、格付け会社は日本国債の格下げに動くだろう。少なくとも、今は「安定的」である見通しを「ネガティブ」、つまり引き下げ方向にする可能性が高い。
もし日本国債が格下げや「ネガティブ」になったら、国債金利が上昇する(市場ではすでにその兆候が現れている)。金利上昇は、次のように国民生活に重大な影響を及ぼす。
① 住宅ローンなどの金利負担増
国債の金利が上がると、それに連動する住宅ローンや企業向け融資の金利が上昇する。住宅ローンの金利が上がると、マイホーム購入の負担が増す。企業の借入コストが増え、設備投資や雇用が減り、経済を悪化させる。
② 物価上昇
国債の格下げは「日本の財政に不安がある」と見なされ、円が売られやすくなる。円安になると食料品・ガソリン・電気など輸入品の価格が上がり、インフレが加速する。
③ 社会保障や公共サービスの低下
国債金利が上がると、政府の利払い負担が増え財政が悪化する。その結果、政府は社会保障費(年金・医療・介護など)や公共事業の支出を削減せざるを得なくなる。
ということで、消費税減税は、メリットをはるかに上回る壊滅的なデメリットが国民に及ぶ可能性がある。消費税減税をしても格付け会社がスルーしてくれる可能性もゼロではないが、かなり勝算の低い危険な賭けであることは間違いない。
ここで厄介なのは、減税による物価下落というメリットは「短期・確実」なのに対し、格下げなど減税のデメリットは、「中長期・少し不確実」であることだ。経済に無知な一般国民が「短期・確実」な減税のメリットだけに注目し、「中長期・少し不確実」なデメリットに気づかないのは致し方ない。
問題は政治家だ。本来、政治家は、中長期的な視点から大局的に意思決定するべきなのに、国民民主党など野党は、夏の参院選のためにデメリットを封印し、減税や財政出動を叫んでいる。本当の意味で国民の幸せを考えているとは思えず、残念なことである。
(2025年4月7日、日沖健)