プロコン独立開業するならできるだけ早く

昨年12月に『企業内診断士のリアル』という書籍を刊行した関係もあって、年明け以降の2か月で、企業内診断士(企業に勤務する中小企業診断士)に講演する機会が6回あった。

そういう場で、プロコン(プロのコンサルタント)志望の50代の方から独立開業のタイミングについてよく聞かれる。「一刻も早く独立開業した方が良いか?」という質問はまれで、多くは「退職金が満額出るようになるまで(あるいは、子供が独立するまで、住宅ローンの返済が終わるまで)待った方がいいか?」という質問だ。

それに対し私は、決まって次のように答えている。「プロコンとして成功したいなら、独立開業はできるだけ早い方が良い。遅くとも55歳まで。それを過ぎたら諦めて、ずっと会社勤務を続けるのが得策だ」

独立開業したいという50代の企業内診断士の心理は、「出世競争は終わったし、定年も近づいてきた。住宅ローンの返済もめどがたったから、長い老後を見据えて無理のない範囲でコンサルタントとして活動をしてみようかな……」というところだろう。

退職金・年金で生活のベースを確保し、長年培った経験・知識・人脈を生かして活動し、企業・社会の発展に貢献し、後輩の企業人からも尊敬される……と書くと「夢の老後」「言うことない第2の人生」に見える。

ただ、そう考えているのは、あなただけではない。他のシニア層もまったく同じようなことを考えて、独立開業に向けて動き始める。

そのため、55歳を超えるあたりから独立開業希望者が急激に増えてくる。同世代の企業内診断士が続々と独立開業し、周りはライバルだらけ。大勢のライバルがひしめく中でプロコンとしてブランドを確立し、成功するのは容易ではない。60歳以上のプロコンの大半が、年収0~300万円の開店休業状態になる。

と言うと、「別に成功して大儲けしたいわけじゃない。会社勤務で培ったスキル・経験を生かして中小企業や地域に貢献したいだけだ。ほどほどに仕事ができればいい」と反論されることがある。しかし、この考え方はいかがなものだろうか。

真剣勝負の企業経営の世界に、「ほどほどに仕事をしたい(=楽をしたい)」というシニア診断士が入り込む余地はほとんどない。現役時代並みにバリバリと働くか、仕事とは距離を置くか、どちらかだ。自分が望むだけほどほどに仕事したいというのは、かなり身勝手な考え方である。

独立開業したいというシニア診断士は、プロコンに過剰な憧れを持っているようだ。たしかに、収入でも社会的名声でも満足いく結果を残しているプロコンもいるが、それはほんの一握りだ。むしろ、企業内診断士の方が、はるかに理想的なビジネスライフを送ることができるように思う。

副業元年と言われた2018年以降、企業診断士でも副業でかなりの活動をできるようになった。平日昼間にやる企業研修など企業内診断士には担当できない業務も一部あるが、企業内診断士とプロコンの垣根はどんどん低くなっている。

実際に、『企業内診断士のリアル』で紹介した土屋俊博さん・高田直美さん・青山雄一郎さんように、プロ顔負けの活動をする企業内診断士が増えている。彼らは、企業勤務で生活の基盤を確保した上で診断士活動をし、会社にも社会にも貢献している。非常に素晴らしい生き方である。

人生の終盤に差し掛かろうという50代の企業内診断士が、プロコンになるという夢・希望を持つのは素晴らしいことだ。一方、自分中心で考えて、競合の存在や顧客ニーズを無視しているのは、気になる。夢・希望を持ち、現実を直視し、納得のいく人生にして欲しいものである。

 

(2025年3月10日、日沖健)