ガソリン税を引き下げるべきではない

各紙の報道によると、揮発油税(ガソリン税)に上乗せされている暫定税率25.1円について、国民民主党が政府に求めている2025年中の廃止が難しい状況になっているという。

昨今の物価上昇を受けて、国民の間でガソリン税の引き下げを求める声が強く、廃止を決断しない政府に対して失望が広がっている。

しかし、私は以下の4点からガソリン税を引き下げるべきではない、むしろもっと引き上げるべきだと思う。

第1に、国際的に見て日本のガソリン価格は極めて低い。わが国のガソリン小売価格は、ヨーロッパ諸国と比べてかなり安く、主要国ではアメリカに次いで安い。世界最大の産油国であるアメリカに次いで国内産出量ゼロの日本が安いというだけでもハテナ?なのに、さらに安くしろという主張は、理解に苦しむ。

第2に、ガソリン税の引き下げは、物価高対策として不適切だ。ガソリン税を引き下げても、恩恵が及ぶのはガソリン自動車のドライバーだけだからだ。物価高は国民全体の問題であり、昨今の物価高の原因である低金利・円安に手を打って、国民全体に好影響を与えるべきだろう(そもそも2%くらいの物価上昇で文句を言うのが間違っていると思うが)。

第3に、税収が1兆円以上で減るので、財源の手当てが必要である。別の税金を上げたら、ガソリン車のドライバーからその他の人に負担を付け替えるだけだ。「赤字国債を発行すれば良い」と主張する向きもあるが、その場合、すでに上昇傾向にある金利の一層の上昇を招き、広く国民全体に打撃が及ぶ。

第4に、ガソリンが低価格化するとガソリン需要が増えて、脱炭素の流れに逆行する。2020年のG20サミットで菅義偉首相(当時)は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする目標を示しており、事実上の国際公約になっている。どうしても減税するというなら、世界に向けた説明が必要だろう。

と主張すると、「公共交通機関が発達している都市部と違って、地方では車が生活の必需品で、ガソリン価格の高騰は死活問題だ。ごちゃごちゃ理屈をこねている場合ではない」という反論(お𠮟り)を受ける。

しかし、「地方に住み、自動車に乗って暮らす」という生活を当たり前のことと考えて良いものだろうか。

今後、地方では人口減少と高齢化が加速度的に進行する。そして、近くにショッピングセンターはおろか商店すらない商店過疎地やガソリンスタンドがないSS過疎地が激増する。この状況で、後期高齢者が車に乗って遠くに買い物に出かけたり、給油しに行ったりするというのは、どう逆立ちしても持続可能な社会ではない。

これからの地方では、コンパクトシティ化で、自動車を使わないようにするべきだと思う。人が住む中心部と人が住まない周辺区域を明確に分け、中心部で公共交通機関と徒歩で暮らせるようにすることが、現実的な地方の生き残り策である。

今回の減税は、夏の参院選に向けて国民にアピールしたい国民民主党が財源を無視して言いたい放題で、典型的なポピュリズムになっている。また、それに乗っかる国民の姿勢も問題だ。政治家は目先の選挙、国民は目先の物価高よりも、わが国の地方のあり方について真剣に議論することを期待したいものである。

 

(2025年2月17日、日沖健)