12月23日、ホンダと日産自動車は経営統合に向けた基本合意書を締結し、本格的な協議に入ることを発表した。両社は共同持ち株会社(ホールディングス)を設立したうえで、それぞれの会社を傘下におさめる形での統合を検討しており、2026年8月には持ち株会社を上場する計画だ。
いま、自動車業界は百年に1度の大変革期の真っ只中にある。三菱自動車を加えた3社の経営統合が本当に実現するのか、実現したら業界地図が大きく塗り替わるのか、大きな注目を集めている。
どうなるかは来年以降のお楽しみだが、ここで私見を披露しておこう。私の結論は、「3社の経営統合はちゃんと実現する。しかし、それによって業界地図が塗り替わることはない」である。
23日の記者会見で、興味深いやり取りがあった。記者の「日産の「ここに惚れた」というところは?」という質問に対し、ホンダの三部敏広社長は「難しいなぁ…」と言葉を詰まらせたのだ。
見知らぬ会社同士が1つになるM&A(経営統合)は、よく結婚にたとえられる。婚約発表の席でお相手のどこに惚れたか問われて「難しいなぁ…」と言うのを見たら、誰もが2人の前途を案じる。ホンダと日産の経営統合も、すんなり行かないと考えるのが自然だ。
では、破談になってしまうかというと、それはなさそうだ。いま自動車メーカーは新車開発や電動化などに巨額の投資が必要になっている。小規模な自動車メーカーが単独で投資を負担するのは難しく、何らかの他社との連携が不可欠だ。ホンダと日産も、生き残るためには独身生活を続けるという選択はありえない。
3社が経営統合すれば、売上高33兆円の世界3位グループが誕生する。ただ、売上高や販売台数では世界有数であるものの、電気自動車で先行するテスラやBYDに対抗できるかどうか、非常に疑わしい。
個人的に気になるのは、経営統合の形態だ。今回、ホールディングスを設立し、ホンダ・日産・三菱がぶら下がる形になる。3社とも存続し、組織やブランドが維持される。工場閉鎖や雇用削減も想定していないという。つまり、3社の上にホールディングスができるというだけで、基本的には現在と同じビジネスが延々と続くわけだ。
ホンダが経営統合を強力に主導し、日産の技術・車種・設備を思い切ってリストラするというならともかく、死に体の日産をおもんばかる“大人の対応”では、やがて3社が共倒れになってしまうのではないだろうか。経営統合が実現した後、三部社長が態度を豹変させることを期待したい。
自動車産業だけでなく日本の多くの産業が構造変化に直面しており、来年は、あっと驚く経営統合が他にも飛び出しそうだ。
清水剛『合併行動と企業の寿命』によると、経営統合は企業価値を高めないが、企業の寿命を延ばす効果があるという。競争力を失った企業が経営統合でいたずらに延命するのではなく、思い切った改革に踏み込むきっかけになることを期待したい。
(2024年12月30日、日沖健)