師走のこの時期と言えば、年末ジャンボ宝くじ。先日、宝くじマニアを自認する知人Sさんと宝くじの話になった。Sさんは宝くじ購入歴40年超で、100万円を当てた経験の持ち主である。そのSさんから、「日沖は宝くじを買わないのか?」と聞かれた。
「買っていないよ」と答えたところ、「どうして? やっぱり戻り率が悪いから?」と聞かれた。以下、私が宝くじを買わない理由である。
宝くじの戻り率は40~50%で、競馬72.5~77.5%・パチンコ80~90%など他のギャンブルと比べてかなり割が悪い。ただ、私が宝くじを買わないのは、儲かりにくいからではない。逆に「大当たりするのが怖い」からだ。
近年、宝くじの賞金は高額化している。年末ジャンボ宝くじは1等・前後賞で10億円だ。もし10億円が当たったら、どういうことが起こるだろうか。
我々はお金を儲けるため、あるいは節約するために、馬鹿馬鹿しいと思うことを嫌々ながらやっている。ウザイ上司やアホな部下と一緒に長時間働いている。スーパーで見切り品を買い漁っている。もし宝くじが当たったら、そういう馬鹿馬鹿しいことをやらなくなるだろう。
馬鹿馬鹿しいことをやめてやりたことがあるなら良いのだが、果たしてどうだろう。世界一周旅行したい、グルメしたい、という常識的なことのほとんどは、1億円・1年間もあれば終わってしまう。それが終わると、長い人生、まったくやることのない無味乾燥な生活が続く。
人間関係も大きく変わるに違いない。仕事を辞めると接触する人が減り、孤独になる。どこから聞きつけたのか「寄付してくれ」「恵んでくれ」という輩が寄ってくる。よほどの鈍感力がない限り、人間不信になり、人付き合いが嫌になるだろう。
やることがない生活、人付き合いをしない生活が果たして幸せだろうか。まったくそうは思わない。お金のことに少し頭を悩ませ、少し嫌なヤツも含めて色んな人と付き合う方が、私には合っている。宝くじは当たっても当たらなくても良いことがないわけで、買わない方が良さそうだ。
とSさんに伝えたところ、Sさんは興味深いことを言った。「お前の理屈はわかるけど、宝くじってほぼほぼ当たらないんだから、そこまで深く考える必要はないんじゃないのか?」
「だったらSさんは、どうして宝くじを買ってるの?」と切り返した。Sさんは黙り込んでしまった…。
儲けたいというなら、もっと戻り率の良いギャンブルを選ぶべきだ。プロセスを味わいたいなら、もっと推理や技能が要求され、刺激性の強いギャンブルを選ぶべきだ。総合的に言うとパチンコがギャンブルの王様で、宝くじはかなり完成度の低いギャンブルである(この段落は、ギャンブル研究の第一人者・谷岡一郎大阪商業大学教授の見解)。
と真面目に考えたら、宝くじを買うという選択はありえない。宝くじを買う人は、以上のことをあまり深く考えていないのだろう。みんなが売り場に行列をしているから俺も並ぼうかな、とお祭りに参加するノリで買っているのではないだろうか。
(2024年12月23日、日沖健)