大学入試は公平であるべきか

秋篠宮家の長男悠仁さまが、筑波大学に推薦入試で合格し、来年4月に入学することになった。戦後皇室に生まれた皇族の国立大学への進学は初めてである。将来天皇になる可能性が高い悠仁さまには、大学で色々なことを学び、経験し、大きく成長していただきたい。と同時に、一人の若者として大学生活を存分に楽しんでいただきたい。

悠仁さまの大学入試については、数年前から「東大に進学されるのではないか」という噂が広がり、SNSなどで「大学側が悠仁さまを不合格にできるはずがない。入試といっても茶番だ」「うちの子は頑張って受験勉強している。皇族というだけで合格するのは不公平だ」「我々の血税で大学に通うことを自覚しているのか」といった意見が飛び交った。

真偽不明の噂を巡って激論を交わすという、相変わらずのSNSのくだらない光景なのだが、少し気になったのは、多くの日本人が「大学入試は何人に対しても公平であるべきだ」と考えていることだ。

現在、大半の日本国民が天皇制を支持している(私は反対だが)。ならば、将来天皇になる可能性が高い悠仁さまには、最高の教育機関で最高の教育を受けていただくのが、国家の、国民のためになる。受験だの学費だのウザったらしいことを言わず、東大でもハーバードでも東京芸大でも日体大でも、適切だと思われる大学に進学していただくべきだ。

今回、秋篠宮家・悠仁さまが筑波大学を「最も適切な大学」と考えて選んだのなら良いのだが、まさか東大を選んでネット民から大バッシングを浴びることを恐れての妥協だとしたら、本人にとってもわが国にとっても不幸なことである。

ところで、我々は当たり前のように、「入試は公平であるべきだ」「裏口入学はけしからん」と言う。しかし、これは日本や中国・韓国など東アジア諸国に特有の世論で、世界的には当たり前ではない。東アジア諸国でやたらと入試の公平性が重視されるのは、おそらく中国の科挙制度(隋から清の時代にかけて1300年間行われた官僚登用試験)の影響だろう。

世界を見渡すと、大半の発展途上国では、特権階級の子弟が優先的に大学入学を許可されている。アメリカの私立大学には、卒業生や多額寄付者の子弟を入学選考で優遇するレガシー制度が存在する。

ただし、日本でも世界でも、この状況が変化しようとしている。

立教大学は、地方出身の学生に地域振興策を教育し卒業後は地域に還流する事業を始める。まず福井県鯖江市と協定を結び、地域活動に熱心な高校生を指定校推薦で受け入れる。「なぜ鯖江? 能登半島じゃダメなの?」と言われると、明らかに不公平な制度だ。少子化で学生確保が課題になっている日本では、今後こういう不公平な入試制度が増えそうだ。

逆にアメリカでは、昨年、連邦最高裁判所が大学の入学者選考で人種を考慮するのを違憲だと判断したことを受けて、大学入学を公平にしようという動きが始まっている。今年9月カリフォルニア州のニューサム知事が州内の私立大学でレガシー入学を禁止する法案に署名した。

悠仁さまの場合は、不公平な入試の方が良いことは間違いないが、こうしてみると、入学の公平性というのはなかなか難しい問題だ。

今回は大学入学を取り上げたが、社会的にもっと大きな課題が、企業の入社試験の公平性である(こちらはいつか取り上げたい)。今後、社会の公平性に関する議論が深まることを期待したい。

 

(2024年12月16日、日沖健)