最近、会社勤務を辞めてプロのコンサルタント(以下「プロコン」)になろうという人が増えている。ここで問題になるのは、やはり受注だ。コンサルティングという目に見えないサービスを売って事業を軌道に乗せるのは、容易なことではない。
クライアント企業がプロコンに仕事を依頼するのは、自社内にいる専門家では解決できない問題があり、社外の専門家にアドバイスしてもらおうということだ。つまり、プロコンには社内の専門家や外部の専門家を上回る専門性が期待される。受注のためにカギになるのが専門性、言い換えると“他人にはない強み”である。
と私がプロコン養成塾などで企業内診断士(企業に勤務する中小企業診断士)に向かって話すと、たいてい「いやぁ日沖さん、私は10年間営業をしていただけで、そんなに大した専門性はありませんよ」という反応が返ってくる。
しかし、これは非常に残念な捉え方だ。10年間も営業をやっていれば、立派な営業の専門家だ。「2015年から10年間、九州で自動車部品の営業をしている」というのは、世界の中でその人だけしか経験していないことで、経験していない他人にとって価値がある。企業内診断士は、日々、会社の業務をこなすうちに、オンリーワンの経験を積み重ねている。
問題は、大半の企業内診断士が自身の経験の価値を認識できていないということだ。「営業しました」「経理やっています」というだけで、他人、とくにコンサルティングの見込みクライアントから見てどういう価値があるのか、明確ではない。
ここで大切なのは、自分自身の経験を相対化・抽象化することである。
相対化・抽象化とは、たとえば営業担当者の場合、他業界・他社の営業担当者・他地域の成功事例・失敗事例と比較することによって、「効果的な営業プロセスとは?」「顧客満足の本質とは?」「顧客データ管理のポイントとは?」といった重要な問いかけに答えられる状態にすることだ。
ただ経験するだけでなく、それを相対化・抽象化することによって、その分野での専門家になり、コンサルティングで色々な会社の色々な課題に対して有効なアドバイスをできるようになる。
では、その相対化・抽象化をするためにはどうすれば良いのか。
自分のことは、なかなか自分ではわからないものだ。何がしか文章・資料にまとめて、他人に読んでもらい、コメントをもらうというのが良いだろう。ブログでも構わないが、中小企業診断士の場合、中小企業診断士協会などにある研究会で成果発表すると、プロからコメントをもらえて効果的だ。本を書いて出版するというのは、さらに効果的だ。
ところで、この半年間、次の著作のために多数の企業内診断士を取材した。彼らの多くは、「私くらいの専門性では、独立開業なんて無理」という。
しかし、成功しているプロコンでもそんなに凄い専門性があるわけではない。自身の経験を相対化・抽象化する、それをクライアントなど色々な人に知ってもらうように努める、という2つをやるかどうかだ。
全国には、専門家の支援を受けられない中小企業がたくさんある。独立開業せず、企業内診断士のままでも良いので、日々積み重ねた経験を専門性に高めて、中小企業や地域社会の発展に生かして欲しいものである。
(2024年11月18日、日沖健)