会計検査院は10月21日、IT導入補助金で1億円超の不正受給が見つかったと明らかにした。IT導入補助金は、中小企業がシステムやソフトウェアなどITツールを導入する際にかかった経費の一部を補助するもので、2019年度に始まった。
今回、会計検査院は、2022年度までの3年間に補助対象となった約10万4000事業のうち376社445事業(交付額計12億円)を対象に実地検査した。その結果、ITベンダーと中小企業が共謀して虚偽申請してIT導入補助金を過大に請求し、ITベンダーが紹介料などの名目でキックバックする、といった不正受給が多数見つかった。
IT補助金を巡っては、導入当初から不正受給が横行していると関係者の間で指摘されていた。私の知り合いの中小企業経営者は、「約800万円の導入費用が実質ゼロ円になった上、ITベンダーからのキックバックで100万円も“利益”が出ちゃったよ」と高笑いしていた。今回発覚した不正は氷山の一角であり、実態解明と厳正な処分を期待したい。
と同時に、IT補助金だけでなく、補助金そのもののあり方を見直したいものである。
2012年に発足した第二次安倍政権では経済産業省が強い影響力を持ち、中小企業支援の補助金を次々と導入した。さらに、コロナ禍では事業再構築補助金など各種補助金が導入・拡大され、コンサルタント(中小企業診断士)やITベンダーの間では「補助金バブル」「コロナバブル」と言われた。
補助金によって中小企業が飛躍的に発展したり、倒産を免れたりする事例は、もちろんある。ただ全体で見ると、(補助金ではないが)コロナ禍のゼロゼロ融資の多くが返済不能に陥っている通り、多くの補助金がムダ金になり、悪徳な中小企業・コンサルタント・ITベンダーを太らせただけに終わった。
と言うと、補助金業務で生計を立てている中小企業診断士から、「世の中には困難な状況に置かれた中小企業がたくさんある。不正受給を正す必要はあるが、補助金そのものが悪いわけではない」という反論をいただく。
しかし、本当に補助金は必要だろうか。個人的には、企業への補助金は一切不要だと思う。
まず、ITなどの投資は、それによって利益が出そうならやる、利益が出なさそうだったら止める、というのが基本だ。「補助金がもらえるからやろう」という経営判断では、不採算な投資がどんどん膨らみ、日本経済を弱体化させる。
人間には生存権があるから、生活に困窮している家庭があったら生活保護などで支援する。一方、企業に生存権はなく、儲けるために勝手に事業をしているだけだ。うまく行くなら続けるし、うまく行かないなら諦めて廃業すれば良い。倒産しそうな中小企業を補助金で救うのは、負けが込んだギャンブラーに胴元が金を貸すようなものだ。
いま国内に半導体産業を育成するために巨額の補助金を投入している通り、「産業構造を転換するために補助金が重要だ」と存在意義を強調する向きがある。しかし、過去を振り返ると、ビジネス経験のない役人が考える補助金の多くは、無残な失敗に終わっている。政府が口と金を出すのではなく、企業の経営判断に委ねるのが、資本主義の基本ルールだ。
この十年間で日本の経営者は、何かを始めるにはまず補助金を探す、経営が困難になったらまず補助金に頼る、という「補助金ファースト」と呼ぶべき残念なマインドになってしまった。
今回の不正受給の発覚を契機に、できれば補助金を全廃、少なくとも「補助金ファースト」という経営者のマインドを一変させて欲しいものである。
(2024年11月4日、日沖健)