船井電機が破産、後継者問題は難しい

船井電機が先週24日に破産した。故船井哲良氏が1951年に24歳の若さで起業し、FUNAIブランドの液晶テレビを北米など海外で広く展開した。しかし、近年は中国勢との低価格競争が激化し、液晶テレビの次を見つけ出すことができず、収益・資金繰りが悪化して力尽きた。

ところで私は、2018年に逝去された船井哲良氏に生前1度だけお会いしたことがある。2006年に大阪府大東市の本社を訪問し、1時間ほどお話しした。そのときすでに78歳だった船井社長(当時)は、自身の後継者を育成する選抜型研修の導入を検討していて、私に声がかかった。

私が研修プログラムの提案を一通り説明したところで、船井社長が私に次のように訊ねた。

「ところであんた、ライブドアのホリエモンと楽天の三木谷のどっちが好きや?」

私が「どちらも好きではありません。が、今後の御社に必要なのは三木谷さんタイプの経営者かと思います」と答えた。すると、船井社長は次のように言った。

「そうか、ワシは断然ホリエモンやな。三木谷は興銀の出身で、ハーバードに留学したことがあるエリート。財界の首脳とも仲良くやってるようで、起業家といっても体制の内側の人。一方ホリエモンは、東大を中退して裸一貫で起業し、既存の秩序をひっくり返そうと頑張っとる。ワシはホリエモンのような気概のある後継者が出てきて欲しいと願っている」

このやり取りがまずかったのか、私の提案は不採用だった。船井電機が私以外の講師で後継者育成研修を実施したのかどうか定かでない。

ただ、その後、社外から後継社長を招聘したものの定着せず、船井氏が亡くなる直前まで実権を握り続けた通り、後継者問題では苦労したようだ。船井氏が亡くなった後の船井電機はさらに迷走し、今回の破産になった。

船井氏のように、才覚と行動力のある創業者が一代で大企業に作り上げるということがたまにある。ただ、優れた創業者が引退した後、優れた後継者が会社をさらに発展させて永続的な優良企業になったという例は、極めて少ない。

どうして優れた創業者に優れた後継者が現れないのだろうか。

優れた創業者ほど幹部社員を信頼しない。自分よりも見劣りする存在に見えてしまうからだ。ある創業者は、「今でこそ大手企業になって優秀な人材が入社してくるようになったが、創業期の町工場に毛が生えた程度のうちにしか入れなかった今の幹部層なんて、みんなアホばっか」と言い放っていた。

創業者が高齢になったら、誰かに後を任せなければいけない。優秀な子息がいて後を継いでくれれば良いが、いない場合どうすれば良いか。アホでも思い切って幹部社員に任せるか、いや外部からプロの経営者を招くか、いやいやアホでもしっかり鍛えれば何とかなるか…。あれこれ迷いに迷う。

船井電機だけではない。ソフトバンク・日本電産といった超一流企業が、まったく同じように後継者問題ですったもんだしている。半数以上の中小企業は後継者不在だ。後継者問題は、やはり日本経済の重大な問題であることは間違いなさそうだ。

 

(2024年10月28日、日沖健)