先週神戸出張の折に行きつけのジャズ喫茶に寄ったら、いつもはジャズと株のことしか語らないマスターが、珍しく政治について語っていた。「最近の石破首相をこき下ろす報道を見ると、まったく気分が悪い。まだ何も始まっていないうちから、どうしてあんなにせっかちに非難するのかねぇ」。まったく同感だ。
政治の世界には、「ハネムーン期間」という言葉がある。新政権が発足して数か月間は、「まずはお手並み拝見」と様子見するのが普通だ。ところが、石破首相の場合、10月1日に発足したばかりなのに、早くも「短命政権に終わる」「衆院選で負けて石破降ろしが始まる」などとメディアが大騒ぎしている。
とくに、田崎史郎や森永卓郎といった評論家は、自民党総裁選の予想を外した腹立ち紛れなのか、「石破下げ」を叫び続けている。注目を集めてナンボの商売とはいえ、ちょっと目に余る。「こういう政策をして欲しい」と具体的な要望を出すか、話すことがないなら静かにしていて欲しいものだ。
ただ、こういう評論家がメディアで幅を利かすのは、国民がそういう情報を求めているからだろう。メディアよりも、評論家よりも、せっかちな国民が「早く次の展開を」「早く結果を出せ」と急かしている。
近年、タイパが重視されている通り(本欄「タイパってどう思いますか?」)、多くの日本人がすぐに成果を出したい、すぐに結果を知りたい、我慢して待つのは無駄、と考える。8月の「令和の米騒動」でも、ちょっと待てば新米が市場に出てくるのに、「早く米をよこせ」と大騒ぎした。日本人は、どんどんせっかちになっているようだ。
ビジネスでは効率が大切で、基本的にせっかちなのは良いことだ。他人と同じことをするなら、他人より少しでも早くやった方が断然優位だ。ただし、研究開発や人材育成については、せっかちだと逆効果で、じっくり腰を据えた方が良いと言われている。
先日、大手メーカーМ社の人材育成担当者と話したら、「これまで新入社員を2年間かけて教育をしていたが、経営者からの指示で1年に短縮することになった」と言っていた。その会社の経営者は「新人も即戦力であるべき」という考えらしい。
私が「それでいいんですか? 経営者に反論しなかったんですか?」と尋ねたら、人材育成担当者は「人手不足の現場からは早く戦力化して欲しいという声が届いています。教育プログラムを見直すのはたいへんですが、育成期間の短縮には賛成です」と言っていた。
М社だけで判断するのは早計だが、企業の人材育成もせっかちになりつつあるようだ。人材育成に時間がかかるという常識もあるが、悠長に人材育成を待っていられないという現場の事情もわかる。大慌てで人材育成することのメリットとデメリットを今後慎重に見極める必要がありそうだ。
ところで、私は若い頃はラーメン二郎とかにのんびり行列したが、最近は行列が嫌いになった。どんなに名店だと言われても、行列ができている店には行かなくなった(二郎はもう何年も食べていない)。外食だけでなく、日ごろの買い物でもできるだけ行列がないところで買うようにしている。
コンサルタントというカッコ付けが重要な職業柄、「俺は自由人だ。行列で他人に行動の自由を奪われるのが許せない」とか言っていたが、何のことはない、私も他の日本人と同様かなりせっかちなようだ。
(2024年10月14日、日沖健)