大学4年の次女が就職も決まり、新しいアルバイトを始めた。何をやるのかと思ったら、総菜屋の店員だそうだ。結局、次女は居酒屋・病院・飲食店など接客系のアルバイトで大学の4年間を過ごすことになった。
私が大学生の頃は、家庭教師が時給の高さで人気だった。次女に「家庭教師はやらないの?」と聞いたら、「まったく興味ない」とのこと。理由は「タイパ(タイムパフォーマンス)が悪いから」。
家庭教師はたしかに時給が高いが、授業の下準備が必要で、生徒から質問があったりすると無給で延長になる。実労働時間で見たタイパは、決して高くない。しかも週1で2時間とか短時間なので、収入の絶対額を増やすのも難しい。一方、接客系は、決まった時間だけ働けば良いので案外タイパが高い。長時間シフトを入れば収入の絶対額を増やすことができる。
近年、タイパという言葉をたびたび耳にする(2022年の新語らしい)。とりわけ小さい頃からITやデジタル技術に慣れ親しんだZ世代は、限られた時間内で成果を出そうということで、タイパを重視するらしい。動画の倍速再生や完全栄養食が、タイパ重視の典型例のようだ。
タイパの良いアルバイトをすれば、効率よく稼ぐことができる。倍速再生すれば、より多くの動画を見ることができる。という点で、まんざら悪いことではないのだが、正直「なんだかなぁ」と思ってしまう。
人生残り少ない老人ならともかく、若い世代にはいくらでも時間がある。次女も授業がない日は昼まで寝ている。という惰眠をむさぼっている人が、「時間が大切」と言うのは滑稽だ。それよりも、時間を気にせずやりたいアルバイトをやり、観たい動画をじっくり楽しんだ方が良いように思う。
ところで、企業でも、働き方改革の流れでタイパが重視されるようになっている。これまで日本では、とりあえず出社することや会社にいることが目的化し、あまりにも時間や成果に対する意識が低かった。残業・休日出勤の削減、テレワークによる通勤時間の短縮、無駄な業務の削減などで、タイパを高めていく必要がある。
一点心配なのは、タイパを重視するあまり、雑談や飲み会など職場のメンバーとのインフォーマルなコミュニケーションが減ってしまうことだ。とくに雑談の価値を改めて認識するべきだと思う。
雑談によって、人間関係が円滑になる。息抜きになる。新しい発想が生まれたりする。ハーバード大学ジョン・コッター教授によると、業績の良い会社の経営者は、雑談による関係づくりに執務時間の半分以上を使っているという。
と役所に勤めている長女に伝えたら、「ちょっと意味わかんない。無駄話をせずにさっさと仕事を終えて、気の合う友達と雑談する方が楽しい」と言われた。言われてみればそうかもしれない…。雑談の価値を伝えるのは、なかなか難しいようだ。
(2024年10月7日、日沖健)