計画運休ってどう思いますか?

先週、大型で強い勢力の台風10号が日本列島に到来し、全国各地で被害を起こした。被害に遭われた方にはお見舞い申し上げたい。

今回の台風10号では、先週、九州新幹線・東海道新幹線など多くの公共交通機関が計画運休を実施した。高速道路も広範囲で閉鎖された。

計画運休によって、夏休み期間中に最強クラスの台風が直撃したにもかかわらず、混乱を最小限に抑えることができたようだ。SNS・ネット掲示板では、「いきなり運休になっても対応しようがない。事前に準備ができて良かった」という肯定的な受け止めが多かった。

ただ、個人的には、計画運休について色々と思うところがある。

まず唖然としたのは、テレビの街頭インタビューを受けた男性会社員が、「会社が『できるだけ出社するように』というスタンスなので、こうして計画運休にしてくれると、判断に迷わずに済むのでありがたい」と明るい表情で答えていたことだ。

安全で出社が必要だと思ったら出社すれば良い。危険で出社が不要だと思ったら休めば良い。この会社員は、そんな簡単なことも自分で判断できないのだろうか。メディアで「私は判断力のない無能な男です」と公言し、恥ずかしくないのだろうか。こういう残念な日本人は、ごく一握りであると祈りたい。

それよりも気になるのは、計画運休が最近どんどんエスカレートしていることだ。計画運休は、2014年にJR西日本が初めて実施したとされる。しかし、今年に入って、かなり頻繁に早い段階から広範囲で行われるようになっている印象だ。

列車・飛行機を動かしてナンボの公共交通機関が、どうして何とか運行しようとせず、計画運休をするのだろうか。尋ねればおそらく「利用者の安全確保を第一に考えて」と答えるだろうが、本音は「国民から文句を言われたくない」からではないだろうか。

計画運休を実施せずに利用者が災害に巻き込まれたら、SNSで「どうして計画運休をしなかったんだ!」という非難が殺到する。とりあえず計画運休をしておけば、「我々は安全を考えて最大限の対応をしました」と言い訳をすることができる。

SNSの時代、「何かあったらどうしてくれるんだ!」という国民の声を受けて、これからますます計画運休が増えるだろう。台風はもちろん、ちょっと強い雨が降ったら計画運休するようになり、やがて少しでも雨が降ったり、風が吹いたりするだけで、計画運休するようになり…。

計画運休だけでなく、台風や地震の報道も「熱帯低気圧になりましたが、決して油断しないでください」「再び大きな揺れがやってきます。まだまだ危険な状態です」とやたらと危機を煽るようになっている。こうした風潮を受けて、企業も、自然災害への対応や日ごろの事業活動で、「少しでもリスクがあったら活動を停止する」という方向になりつつある。

Wikipediaによると、日本以外で計画運休を実施しているのは、香港だけらしい。「文句を言われない」ことを重視し、「とにかくリスクを回避する」ことを最優先するのは、日本の特徴のようだ。

リスクがあったらとにかく回避しようと躍起になる日本。リスクを直視し、どこまでリスクを取るかを国民・企業が判断する諸外国。どちらが適切なのか、しっかり考えたいものである。

 

(2024年9月2日、日沖健)