先日、舞台公演に初出演するという知人から、「舞台で緊張しないためにはどうすれば良いか?」という相談を受けた。私は心理カウンセラーとかその筋の専門家ではないが、テレビ出演をしても普段通りに振舞っているので、「日沖さんなら緊張しない方法を知っているかも」と思ったのだろう。長く相談業をしていると、色々な相談があるものだ。
私は、緊張しない方法を知らない。なので、緊張することがたまにある。ただ、自分がどういう場合に緊張するかはわかっている。一般に広く当てはまるかどうかは不明だが、次の2つの場合だ。
① 自信のないことをしゃべるとき
② 自分を実態よりも良く見せたいとき
最近のテレビ出演に関しては、①②に該当しなかったので、まったく緊張しなかった。むしろ楽しめた。①②に該当するとき、たとえば不得意なテーマでいきなりプレゼンしてくれと頼まれた場合とかは、緊張する。
そこで、知人には、「①については初舞台なので“仕方ない”としか言いようがない。②については、自分の実態より良く見せようと思わず、現時点のベストを尽くすことに専念すると良いのでは」と伝えた。さて、私のアドバイスは、どれくらい効果があっただろうか。
ところで、緊張している状態だと何がいけないのだろうか。緊張して声も出ない、踊れないということなら見ている方も困ってしまうが、心の中で緊張しているだけなら、何も迷惑は及ばない。むしろ、緊張している方が良いということもある。
中小企業大学校の中小企業診断士養成課程で、後輩の中小企業診断士(コンサルタント)に次の話を紹介している。
2人のコンサルタント甲さんと乙さんが、それぞれクライアントにプレゼンする。
² 甲さん:プレゼンの達人。自信満々、まったく緊張した様子を見せず、立て板に水を流すようにスラスラと説明する。
² 乙さん:上がり性。つっかえ、どもり、汗かきかき。しかし、クライアントに対する自分の想いを、熱意を込めて伝える。
世間的には、プレゼンの達人・甲さんの方が高評価だろう。しかし、聞き手のクライアントから見た評価はどうか。おそらく、上がり性・乙さんの方が高評価に違いない。
甲さんの流ちょうなプレゼンを聞いて、クライアントは反感を覚える。「ちょろっとわが社を分析したくらいで、どうしてすべて分かったように自信満々にプレゼンできるんだ。コイツぱっと見は良いけど、あまりお付き合いしたくない男だ」
一方、乙さんの拙いプレゼンを聴いて、クライアントは共感する。「ちょっと聞き苦しかったけど、わが社がどう改革するべきか、想いは伝わった。誠実な人のようだし、このコンサルタントと一緒に仕事をしてみよう」
緊張するかしないかは、本人にとっては大問題かもしれないが、その様子を見ている人にとっては、そんなに重要なことではないのだ。
と書いていて、今年2月のトラブルを思い出した。20人の受講者を相手に研修でしゃべったとき、始まって5分くらい話したところで、ズボンのチャックが全開になっていることに気が付いた…。私のようにあまりにも緊張感がないのは、やはり大問題である。
(2024年7月22日、日沖健)