オリックスのクロスウェーブは秀逸だが共感できない

先日、クロスウェーブで研修講師業務をした。

クロスウェーブと言われても、社会人教育の関係者以外は「何それ?」というところだろうが、オリックス不動産が全国6か所で運営している宿泊型の研修施設である。

私はコンサルタントとしてこれまで国内外の多数のビジネスを見てきたが、クロスウェーブのビジネスモデルは秀逸だと思う。どのように秀逸なのか。

バブル期まで大手企業は自前の豪華な研修施設を持っていたが、バブル崩壊後、次々と手放した。オリックスは、新日鉄・明治生命・大阪ガスといった大手企業が手放した研修施設を安値で買い取った。まず、初期投資が非常に少ない。

オリックスは、買い取った施設をホテル並みにピカピカに改装し、宿泊型の研修施設として企業に貸し出した。宿泊の部屋は、研修利用の空きがあったら、一般個人にホテルとして利用してもらう。平日は研修利用で、休日はホテル利用で、高い稼働率を維持している。

クロスウェーブの最大の特徴は、食事だ。朝昼晩と「これでもか!」と豪華な食事を提供する。研修受講者から「次回の研修もぜひ(飯がうまい)クロスウェーブでやってほしい」という要望が出てくる。多くの企業の研修担当者は、「特別な研修は高くてもクロスウェーブで、普通の研修は安く他の施設で」という使い方をする。客単価を高く維持できる。

このようにクロスウェーブは、①少額の初期投資、②高い稼働率、③高い客単価を実現している。この施設型のビジネスを成功させる3つの条件を満たしている事例は、世間でなかなか見当たらない。

たとえばディズニーランドは、②を実現しているが、①と③は微妙だ。星野リゾートは、③を実現しているが、①と②は微妙だ。多くの介護施設に見るように、①②③のどれかを満たすだけでも一苦労だ。

クロスウェーブは施設型のビジネスの教科書と言ってよいくらいで、「商売上手」と評されるオリックスの面目躍如である。

しかし、研修講師の私は、クロスウェーブに共感できない。というより大嫌いだ。以下は、ひねくれ者の私のうがった見方なので、オリックスの関係者がいたら気軽に受け止めていただきたい。

「研修太り」という言葉がある。研修施設に何日も缶詰めになっていると、運動不足になるし、楽しみは食事だけなので食べ過ぎて、ぶくぶく太ってしまう…。

という実態を熟知しているオリックスは、「研修なんて、どうせつまらないもの。受講者は食事以外には関心がない。唯一の楽しみである食事で受講者の心を掴んで、また利用してもらおう」と考えている。

「将(企業の研修担当者)を射んとする者はまず馬(受講者)を射よ」という戦術は見事だが、「研修なんてどうせつまらないもの」と言われて、研修講師としては穏やかではない。「受講者は食事以外には関心がない」というのも、ずいぶん受講者を馬鹿にしているのではないだろうか。

オリックスは日本を代表する企業だが、オリックスに共感しているという人はあまりいない。創業者・宮内義彦(現シニア・チェアマン)の「理念もへったくれもない。ただ儲かればいい」という経営姿勢を見透かされているように思う。繰り返すが、以上は利用者としての私のうがった見方である。

ということで、私はクロスウェーブで仕事をするたびにモヤモヤする。来月もクロスウェーブで研修講師業務があるのだが、少し飯を楽しみにしている自分が情けない。

 

(2024年6月17日、日沖健)