先週、渋谷を歩いていたら、サーティワンアイスクリームに長蛇の行列ができていた。なんでも、5月9日から「欲ばりフェス」という安売りキャンペーンをやっていたようだ(5月30日まで実施の予定だったが、15日に前倒し終了)。報道によると、全国のサーティワンで行列ができ、中には2時間待ちという店舗もあったらしい。
希少品を手に入れるために行列をするのは、わからなくない。しかし、今回のように、いつでも誰でも手に入る安価なものを「普段より安い」という程度の理由で行列して買おうというのは、いかがなものか。私にはまったく理解不能で、唖然とした。
行列について少し考えてみたい。皆さんは行列するのが好きだろうか。好きではないものの、苦にはならないだろうか。それとも、嫌いだろうか。
私は行列が大嫌いだ。正確に言うと、若い頃はさほど苦にならず、二郎とかで行列したが、コンサルタントの仕事をするようになってから大嫌いになった。歳を取って気が短くなったせいもあるが、オペレーションの効率化に無頓着で客を立ったまま待たせてなんとも思わない店側の姿勢が許せないからだ。
オペレーション管理の研究領域に「待ち行列」がある。どうすれば行列を解消あるいは短くし、スピーディに顧客対応するか、という研究だ。
有名なのが、「川並びか、フォーク並びか」というテーマ。サービスポイント、たとえば、銀行に3台のATMがあるとして、3列で並ぶのが川並び、1列で並んでATMに近づいたら3つに分かれるがフォーク並びである。
客から見て公平性が高いのは、もちろんフォーク並びだ。では、行列をさばく全体のスピードが速いのはどちらだろうか。
答えは、川並びの方が速く、フォーク並びの方が遅い。フォーク並びだと分岐点からサービスポイントまで移動する時間ロスが発生するからだ。JRのみどりの窓口で係員が「はーい、先頭のおじいちゃん、こちらのカウンターが空きましたよ」と呼び、おじいちゃんがえっちらほっちら歩いていく姿を想像してほしい。
アメリカでは、小売業・サービス業の経営者の多くがMBAで学んでおり、待ち行列について知っている。公平性を重視してフォーク並びを選ぶか、スピード(効率性)を重視して川並びにするか、真剣に悩む。その他、科学的なアプローチでオペレーションの改善に努めている。
一方、日本の経営者の多くは、オペレーション管理について勉強しない(チェーン店は別)。それ以前に、そもそも顧客満足について真剣に考えていないのではないだろうか。
たとえばラーメン店をオープンし行列ができると「ふふふ、これで俺も行列店の店主だぜ」ということで、オペレーションを効率化する努力もしなければ、「お待たせしました」と一言かける気遣いもない。という店に「顧客満足」「お客様第一」とか張り紙があったりすると、無性に腹が立つ。
ところで、渋谷でサーティワンに並んでいた若者は、「いつまで待たせやがるんだ」とイラついた表情ではなく、友達と穏やかな笑顔で談笑しながら待っていた。
効率重視でイラついている私よりも、人間としてはゆとりがあって素晴らしいという気がした。
(2024年5月20日、日沖健)