ジョブ型雇用で利益・不利益を受けるのは?

欧米で一般的なジョブ型雇用が日本企業に浸透しつつある。担当する業務や勤務地を明確に決めて採用するジョブ型は、日本でも中途採用では昔から普通に行われていたが、これを新卒採用にも広げようという動きが出始めている。

就活サイトなどを覗くと、「入社後どういう仕事をするのかイメージがつかめてありがたい」「転勤がないのは嬉しい」といったコメントがある。多くの就活生が、ジョブ型雇用を好意的に捉えているようだ。

しかし、本当にジョブ型雇用は新卒学生にとって望ましいことなのだろうか。

ジョブ型雇用の本質は、ポストが空いたら足りない人を採用する「欠員採用」である。たとえば、営業担当者が3名退職したから3人補充する、新たに工場を立ち上げることになったから生産技術者を5人採用する、という具合だ。

欠員採用では、業務に穴を空けないように、即戦力が求められる。そのため、職務経験があるベテランが優先的に採用される。逆に、仕事の経験がない新卒学生や足りない若年層は採用からあぶれてしまう。ジョブ型が一般的な欧米では、20代の失業率が10%以上に達するのが当たり前だ。

欧米では、大学の授業が忙しく、単位取得が厳しくて卒業できるかどうか不確定なので、在学中から就職活動をし、卒業と同時に働き始めるのは少数だ。卒業したら、おもむろに就活を始めるか、経験不足を補うためにインターンで働く。どんなアホな大学生でも全員が卒業し、とりあえずどこかの会社で4月1日から一斉に働き始める日本とは、かなり対照的だ。

いま日本は過渡期なので、新卒一括採用の習慣を残しつつ、ジョブ型雇用を導入しようとしている。新卒学生は、新卒一括採用とジョブ型雇用の両方をいいとこどりし、「卒業後すぐに自分の希望する職種で働くことができる」という「バラ色の状態」になっている。

しかし、将来ジョブ型雇用が本格的に浸透したら、新卒一括採用は崩壊し、若年層の失業が増加する。このように、ジョブ型雇用は、経験者や高度なスキルを持った人には望ましく、大半の新卒学生や若年層には過酷な仕組みなのだ。

では、企業にとってはジョブ型雇用は是か非か。ジョブ型雇用では、必要な人材を必要な時だけ採用するので、人員が過剰になることはない。すでにスキルを持った即戦力の採用が中心なので、採用後の人材育成のコストもかからない。企業にとって一見、良いことづくめに見える。

たしかに短期的にはその通りだが、ここで若手の人材育成を誰が担うのかという長期的な社会問題がある。

いま日本の若手は、高校・大学を卒業後とにかくどこかの会社に入って、OJTでスキルを高めることができる。ところが、ジョブ型雇用で若年層の失業率が高まると、スキルを高める機会がない若者が増える。

スキルが低い若者が増えると、長期的には人手不足で企業の事業運営が困難になるだろう。ジョブ型雇用は、企業にとっても良いことばかりではないのだ。

ジョブ型雇用で企業が若手の育成を放棄したら、さすがに「自己責任でしっかり勉強しろよ」と突き放すわけにはいかないので、国が職業訓練の機会を提供するか、大学がカリキュラムをより実践的なものに改革する必要がある。ジョブ型雇用に対応して企業・大学・社会に大きな変化がありそうだ。

 

(2024年3月11日、日沖健)