先月、企業などに勤務する中小企業診断士(以下「企業内診断士」)の団体で「独立開業することにどこまで意味があるのか?」というテーマで講演した。
講演後の質疑応答で、ある参加者から「プロコン(独立開業しているコンサルタント)は企業内診断士に対し『俺たちはお前らよりも偉いんだぞ!』とマウントを取っているように感じる」という指摘があった。
その場では、「そうかもしれませんね…」と曖昧に相づちを打っておいたが、興味深い指摘なので、この場で考察したい。
まず、独立開業する目的・動機に「偉い」と言える要素はあるのだろうか。これまで多数のプロコンを見てきたが、「世の中を変えるぞ!」と大きな志を持って独立開業するケースは少ない。「自分のスキルを活かしたい」「会社勤めが嫌になった」「何だか面白そう」といった動機がほとんどだ。独立開業の目的・動機に尊さは感じられない。
目的・動機はともかく、結果的にクライアントや社会の発展に貢献できれば良いのだが、こちらもどうか。多くのプロコンが、補助金申請支援などで生計を立てている。補助金を受け取ったクライアントは「先生のおかげです!」と感謝するが、国民の税金が渡っただけで、トータルで社会が良くなるわけではない。活動結果にも「偉い」「凄い」という要素はない。
では、目的・動機も活動結果も誇るに値しないプロコンが、どうして企業内診断士にマウントを取るのだろうか。マウントを取ることが習慣化している人を別にして、おそらく、独立開業という「清水の舞台から飛び降りた」経験を「凄いですね!」と認めて欲しいのだろう。
たしかに中小企業経営者、とくに創業者は、「清水の舞台から飛び降りた」経験に一定の価値を認める。コンサルティング会社に所属するコンサルタントには「安全なところに身を置いて偉そうに経営を語るな!」と敵意を燃やすのに対し、自分と同じ起業経験のあるプロコンには一目を置く。
ただ、その価値はクライアントなど他人が認めて指摘することであって、自分から口にすることではない。まして他人を捕まえて「お前らよりも偉いんだ」とマウントを取るのは、まったくいただけない。
私が22年前に独立開業した直後を思い起こすと、収入ゼロで、クライアントからも家族からも認めてもらえず、悶々とした。「でも俺はリスクを取って独立開業し、懸命に頑張っているんだ」と訴えたい気持ちが少しあった。しかし、そんなことしか自慢がないという自分がみじめで、「俺を認めろ!」と口にしなかった。
やがて事業が軌道に乗り、クライアントからも家族からも認められるようになった。すると、「俺を認めろ!」という気持ちは自然になくなった。
つまり、企業内診断士にマウントを取るプロコンは、独立開業の直後であるとか能力が足りないといった理由で、誰からも認められていないということだろう。
もし企業内診断士がこの文章をお読みなら、マウントを取ろうとするプロコンは精神的にかなり参っているので、大目に見ていただきたい。
もし活動が上手くいってないプロコンがこの文章をお読みなら、企業内診断士を捕まえてマウントを取るより、どうやったら売れるようになるか真剣に考えてほしい。
(2024年2月12日、日沖健)