このたび、『失敗事例から学ぶ!中小企業診断士の独立開業のリアル』と題するビジネス書を刊行した。診断士が自身の成功体験を語る本は多いが、失敗事例を紹介する本はおそらく初めてではないだろうか。
どんなビジネスでも成功するには、そのビジネスのリアルな実態を知る必要がある。成功したいなら、よく目にする、例外的な(しかも本当かどうか疑わしい)成功体験談だけでなく、大半を占める失敗事例も知る必要がある。
成功事例だけでなく失敗事例からも学び、独立開業のリアルを知り、一歩でも成功に近づいて欲しい―。これが、本書を執筆した動機である。独立開業を志向している診断士や診断士の受験を検討している方には、是非お読みいただきたい。
ところで、私は中小企業大学校の中小企業診断士養成課程で長く教えている関係で、受講者から独立開業に関する相談をよくいただく。10年くらい前まで、独立開業しようかどうか迷っている企業内診断士から相談を受けたら、必ず「悪いことは言わない、絶対にやめておいた方がいい」と伝えていた。
理由は、以前は失敗するケースの方が圧倒的に多かったのと私から制止されて「それでもやりたいんです!」というくらいの強い決意がないと成功しないだろうと考えていたからだ。
しかし、最近は考えを変えて、「2年くらい無収入でも生活できる蓄えがあり、失敗しても再就職できる自信があるなら、やってみるのもあり」と言うようにしている。
近年、コンサルティングや企業研修の市場が広がり、独立開業の成功確率がかなり高くなっている(それでも会社勤務時代の収入を上回る確率は3割程度だが)。また、大した決意もなくフラッと独立開業して成功するという診断士をよく見かけるようになった。さらに、転職市場の整備が進み、失敗しても容易に再就職できるようになっている。
これらが、私が考えを変えた直接の理由なのだが、もう一つ、独立開業し、プロコンとして活動するという素晴らしい人生の挑戦を色々な方に体験してほしい、という気持ちが根底にある。
独立開業には、さまざまなリスクがある。コンサルティングという目に見えないサービスを売るのは容易なことではなく、かなり高い確率で収入が激減する。成功しても、コンサルタントの仕事は激務・多忙なので、体調を崩してしまったり、家庭が崩壊してしまうことも珍しくない。
一方、独立開業することで、自分が持つ知識・スキルを活かすことができる。色々な人と出会って、幅広く活動し、企業や社会の成長・発展に貢献することができる。これは、会社勤務ではなかなか味わえない、素晴らしい生き方ではないだろうか。
独立開業したら、高い確率で失敗に終わり、「あのとき変な気を起こさなければ良かった」と後悔する。独立開業しなかったら、確実に「あのとき決断していれば俺の人生も変わったのに」と後悔する。独立開業に興味を持ったら、どのみち後悔するわけだ(売れないコンサルタントも必ず口では「後悔していない」と言うが、真に受けない方が良い)。
どのみち後悔するなら、挑戦せずに後悔するよりも、挑戦して後悔する方が精神衛生上いいと思うが、ちょっと無責任すぎるだろうか。
(2023年12月18日、日沖健)