神戸出張のたびにほぼ毎月立ち寄っているジャズ喫茶のマスターは無類の株好きで、同類の私と株談義になる。ただ、景気の良い話は少なく、「儲かりまへんなぁ」「またやられました…」といった負け戦の反省会になる。
スポーツや芸術では、よく「好きこそ物の上手なれ」と言われる。学校の勉強でも、この言葉は当てはまる。しかし、株式投資については、マスターや私だけでなく、一般にこの言葉は当てはまらないようだ。
なぜ株好きは株式投資で儲からないのだろうか。
まず、ランダムウォーク理論と言われる通り、株価は短期的にはブラウン運動で酔っ払いの千鳥足のように不規則に動く。株好きが熱心に株のことを勉強しプロ級の知識を身につけたとしても、(インサイダー以外の)極秘情報を入手したとしても、株価の動きを予測して短期売買で利益を上げるのは困難だ。
また株好きは、毎日ボードと見て日経平均や保有銘柄をチェックし、一喜一憂する。日経平均が上がると気分が高揚して「バスに乗り遅れるな」と買い、下がると恐怖心に駆られて「逃げ遅れるな」と売る。安く買って高く売れば儲かるのに、逆に高く買って安く売って損してしまう。
さらに、株好きは自分が好きな銘柄を買う、あるいは自分が買った銘柄のことを好きになる。「銘柄に惚れる」状態だ。そのため、惚れた保有銘柄に悪材料が出て株価が下がっても「そんなに重大なことではない」「すぐに立ち直るだろう」と好意的に解釈し、売り時を逃してしまう。
逆に言えば、短期売買を避け長期投資に徹する、日々の相場の動きから距離を置く、感情を入れずに機械的に売買する、という3点を心がければ、かなり勝率が上がるだろう(もちろん絶対に勝てるということではない)。
要は、「株で儲けたかったら、株を好きになるな」ということになる。先ほどの「なぜ株好きが株式投資で儲からないのか?」というのは愚問で、「株が好きだから株で儲からない」のだ。
ギャンブル好きが「どうして俺は毎日パチンコに通っているのに勝てないだろう」と呟くのを聞いたら、普通は鼻で笑うだろう。つまり、短期の株式投資は、本質的にはギャンブルと同じということである。
ところで、コンサルタントとして気になるのは、企業経営。企業経営は、スポーツや芸術と同じで「好きこそ物の上手なれ」なのか、株式投資やギャンブルと同じで「勝ちたかったら好きになるな」なのか。
スティーブ・ジョブズは「熱烈に好きなことを見つけるのが成功の秘訣」と語った。ただ、世間では、経営者が企業経営が大好きで年中心血を注いでいるのにまったく業績不振という会社をよく目にする。逆に、企業経営が嫌いな経営者が短期間で大成功し、あっさり会社を売却してリタイアするというケースもよくある。
企業経営はスポーツ・芸術に近いのか、株式投資・ギャンブルに近いのか。この疑問に対する私の答えは、追って本欄で書いてみたい。
(2023年11月20日、日沖健)