政府が11月上旬にまとめる経済対策で、近年の税収増の一部を国民に還元する具体策として、所得税を定額で4万円減税する方針を固めた。一方、物価高対策として国民の期待が大きい消費税の減税について、岸田首相は25日の衆議院本会議で「考えていない」と答弁した。
国民・野党からは消費税減税の見送りに失望の声が出ている。しかし、岸田首相の判断は、極めて現実的だ。個人的には、むしろ消費税を増税するべきだと思う(岸田首相は「増税する」とは言っていないので、私こそ正真正銘の「増税メガネ」である)。
どうして消費税の増税が必要なのか。
消費税の他の税金と比較した特徴は、間接税で国民が広く負担すること、そのため逆進性があることだ。所得や資産がある者だけが払う所得税や固定資産税と比べて、金持ちに優しく、貧乏人には厳しい。なので、もし国民に税金を1つだけ課すなら、消費税ではなく、所得税か金融資産税(いま日本には存在しない)にするべきだと私も考える。
しかし、消費税が1989年に導入されたのは、急速な高齢化に伴い社会保障給付費が膨らむ中、一部のお金持ちだけが負担をするのではなく、すべての世代が広く公平に負担を分かち合う必要があったからだ。
1989年までのように消費税がなく、法人税・所得税に依存することには、次のような問題がある。1)法人税・所得税は税収が景気動向に左右されるので、安定的な財源にならない、2)高い税金を嫌って企業や個人が海外に流出する。
1)については、よく「いまは物価高で緊急事態だから、一時的にでも消費税を減税するべきだ」と言われる。しかし、現在の2~3%のインフレ率は、デフレ脱却のために政府が目指してきた水準で、長い歴史で見るとむしろ低インフレ(=適度なインフレ)だ。「いまは緊急事態」というのは、かなりピント外れな認識である。
2)については、よく「アメリカは日本よりも法人税率が高い」と反論される。しかし、アメリカは世界経済の中心で、ビジネスチャンスが多いから企業・個人は高い税金を払って居続けたいと考える。魅力が乏しい日本で法人税・所得税が上がったら、優良法人や富裕層から先を競って海外に脱出し、日本は逃げ遅れた貧乏人と赤字企業だけが残る悲惨な社会になるだろう。
税収に占める所得税・法人税など直接税と消費税など間接税の比率を直間比率という。日本の直間比率は「65:35」で、直接税に偏っている。日本ほどは高齢化が進んでいないイギリスが「58:42」、フランスが「55:45」、ドイツが「55:45」であるのを見ると、消費税増税で直間比率を是正する必要がある。
「増税するべき」というと、「お前は相変わらずひねくれ者だ」と言われる。しかし、IMFは「消費税率を2030年までに15%、2050年までに20%に引き上げるべき」と勧告している。日本でも、経済学者の過半数が増税を支持している。これだけ悪化した国家財政から目を背けて減税を叫ぶ日本国民は、かなり楽天的かつ身勝手だと思う。
なお、増税よりも先に「宗教法人にちゃんと課税するべきだ」「無駄な支出を減らすべきだ」とよく言われる。まったくその通りだが、だからといって「増税しなくても良い」ということにはならない。
岸田首相には、まずこうした改革に着手し、国民の理解を得たうえで消費税を増税し、真の「増税メガネ」になって欲しいものである。
(2023年10月30日、日沖健)