コンサルタントは自由で気ままなのか?

中小企業診断士を養成する仕事をしている関係で、コンサルタントとして独立開業することを希望する会社員の方からよく相談をいただく(以下、独立開業し活動するコンサルタントを「プロコン」と呼ぶ)。彼・彼女らにその動機を尋ねると、よく「自分の専門知識や経験を生かして社会に貢献したい」といった答えが返ってくる。

ただ、本当に自分の専門知識や経験を生かして活動したいなら、仕事を受注できるかどうか不確かなプロコンよりも、確実に仕事があるコンサルティング会社に転職する方が得策だ。どうしてわざわざ独立開業したいのかと聞くと、「コンサルティング会社には自由がない。自由に活動したいから」と言う。結局、プロコンの方が自由で気ままというわけだ。

本当にプロコンは自由で気ままなのだろうか。

私は年間140170日くらい地方出張し、全国各地をフラフラしている。1週間仕事をせず、ボーっとしていることもある。決まった場所で決まった時間働く会社員と比べると、たしかに自由で気ままに見えるかもしれない。

しかし、プロコンには2つの大きな不自由がある。

一つは、経済的な不自由だ。コンサルティングという目に見えないサービスを売るのは、容易なことではない。そのため、多くのプロコンが会社員時代の年収を下回り、最低限の収入で慎ましく暮らす不自由な生活を余儀なくされている。「俺は年収1億円だ」という(自称)成功者も、最初の半年とか1年は無収入に近い状態を経験する。

もう一つは、働き方の不自由だ。プロコンは、クライアントから依頼があったら、全国どこにでも飛んでいって、寝ずに対応しなければならない。自分の意志で働き方を決めることはできない。働き方が「一定でない」ものの、働き方の主体的な選択という点で、コンプライアンスで守られている会社員と比べて自由度が低い。

では、プロコンがまったく不自由かというと、そうでもない。プロコンが会社員と比べて自由なのが、人間関係だ。

会社員の場合、自分の上司を決められないので、気に食わない上司でも毎日顔を合わせなくてはいけない。とくに、社長と顔を合わせて働き続ける中小企業では、社長が気に食わないなら、会社を辞めるしかない。

それに対してプロコンは、クライアントが気に食わないとしても、案件の一定期間が過ぎれば関係が終わる。そもそも、自分が相手を「気に食わないな」と嫌っている場合、相手も自分のことを嫌っているので、一緒に仕事をすることはあまりない。人間関係という点では、自由で、ストレスは少ない。

ただし、相手が気に食わないからといって仕事を断ってばかりいると、収入が減って経済的な不自由を余儀なくされる。好きな相手と好きな仕事だけをやって十分に稼いでいるという幸福なプロコンは、そんなに多くはない。総じて言うとプロコンは、自由で気ままどころか、非常に不自由である。

近年、プロコンを目指す会社員が増えている。彼・彼女らは、プロコンが自由で気ままだと誤解しているのだろうか。それとも不自由であることを承知で、志望しているのだろうか。その場合、プロコンには不自由さを上回る魅力があるのだろうか(ありえないが、「社会的ステータスが高い」とか)。私が気付いていないだけかもしれないので、さらに考えてみたい。

 

(2023年10月23日、日沖健)