大谷翔平と日経平均

 大谷翔平が土曜日に日米通算200号となる25号ホームランを放った。ホームラン王争いで、アリーグのトップを独走している。今シーズンの大谷は、投手の方も含めて好調だが、とりわけ5月下旬以降この一か月の打撃は、「漫画でもちょっとあり得んだろ」というくらい神がかっている。

ところで、好調というと日経平均。日経平均は年初から好調で、すでに昨年末から25.7%も上昇している(623日終値ベース)。とりわけ5月下旬以降、上昇が加速し、バブル期の史上最高値38,915円を目指す動きになっている。

この1か月間のマスコミ報道では、日経平均の上昇か大谷翔平の活躍のどちらかがトップニュースになることが多かった。この2つは、たまたまタイミングが重なっただけだろうか、因果関係があるのだろうか。

3月に行われたWBCで、日本は大谷翔平の活躍もあって見事に優勝した。日本の投資家は、勇気づけられ、「日本もやればできる」と自信を持った。海外投資家は「そう言えば日本って国もあったな」と思い出した。

4月にウォーレン・バフェットが来日し、5大商社株など日本株を買い増すと表明した。日本の投資家は「バフェットの眼鏡にかなうとは、日本株も捨てたもんじゃない」と考えた。海外投資家も「日本株も無視できんな」と見直す機運が芽生えた

5月下旬以降、大谷翔平が目を見張る大活躍をするようになった。日本の投資家は大谷の活躍を見て「日本人ってやっぱりすごい」と気分が高揚した。海外投資家は、運用成績で後れを取らないように「バスに乗り遅れるな」と日本株を慌てて買った。

日経平均など株価指数は、長期的には、経済の基本条件(ファンダメンタルズ)に沿って動く。しかし、短期的には、投資家心理に大きく左右される。こうして振り返ると、3月下旬以降の日経平均の急上昇のうち1~2割は、大谷翔平の活躍を見て、日本の投資家が気が大きくなったこと、海外投資家が日本株を見直すようになったことによるものだと思う。大谷様様である。

ということで、大谷効果で、「日本人ってやっぱりすごい」「日本経済・日本企業も実はすごい」と沸き返っている今日この頃だが、そこまで楽観視して良いのか。

まず、大谷はたしかに日本人だが、「突然変異」と言うべき超例外で、大谷がどれだけ活躍しても「日本人はすごい」とはならない(ジャイアント馬場を見て「日本人は背が高い」と言わないのと同じ)。それよりも、大谷翔平の活躍は本人の実力によるものだが、日経平均の上昇は日本経済・日本企業の実力によるものと言えるのかが問題だ。

株価の割安・割高を見る代表的な指標がPER(株価収益率)。日経平均のPER19.9倍(623日終値ベース)で、1416倍と言われる適正水準を大きく超えている。現時点の実力からは明らかに買われ過ぎで、期待先行と見るべきだろう。

今後、日本企業が期待先行の株価に見合った収益力を付けることができるか注目だ。もちろん、個々の企業は収益力向上に取り組んでいるはずだが、ここで気になるのは、国が低収益の企業を温存しようしていることである。

国は、コロナ禍で、「1社たりとも倒産させるな」と低収益の限界企業にも補助金やゼロゼロ融資を提供した。コロナが終わっても支援の手を緩める気配はない。韓国サムソンや台湾TSMCとの競争に敗れたオワコンの半導体産業を復活させるために、補助金で支援している。

国民は「日本人はすごい」、企業は「日本企業はすごい」と過信せず、謙虚に改革に取り組みたい。また、政府は国民・企業の改革意欲を削ぐような無用な保護主義政策をやめるように望みたい。