2040年の日本の主力産業

野口悠紀雄『2040年の日本』を読んだ。日本経済の将来について客観的に分析されており、非常に参考になる本だった。若いビジネスパーソンやこれから社会に出る学生の皆さんには、是非とも読んで欲しい。

この本を読んで、日本経済が置かれた厳しい現状と未来、そして必要な経済政策がよく理解できた。ただ、どういう産業が今後の日本の主力産業になるかは、示されていなかった(「すべてダメ」という感じ)。そこで僭越ながら私が、2040年の日本の主力産業を占ってみたい。

まず、現在の日本の主力産業と言えば、自動車。ただ、野口教授も指摘する通り、自動車産業の将来は非常に暗い。日本の自動車メーカーが得意とするすり合わせ技術の優位性が、電気自動車では発揮できないからだ。

「電気自動車は本当の意味でエコじゃない。究極のエコカーである水素自動車でトヨタが優位に立てる」という見方もあるようだが、世界最大の自動車市場の中国が国を挙げて電気自動車に突き進んでいる以上、いかなる正論も通らないと覚悟するべきだ。

では、どういう産業が主力産業になるのか。主力産業を「規模の大きい産業」と考えると、医療や介護だろう。では、「国際競争力のある産業」という観点ではどうか。

産業の国際競争力を考える際に有効なのが、J・バーニーが提唱したVRIOフレームワークである。つまり、その国が持っているリソースをValue(価値があるか)・Rarity(希少か)・Inimitability(模倣が困難か)・Organization(組織に内在化されているか)という4つから分析する。

VRIOの細かい分析は省略するが、結論的には、2040年に日本が国際競争力を持っているのは、観光・飲食・性風俗の3つであろう。

    観光:海外に行くと、まず魅力的な観光資源の絶対数が少なく、しかも名所旧跡が分散している(パリやシンガポールは別)。それに対し、日本は狭い国土に観光資源が密集している。かつては欧米から遠いことが問題だったが、逆に今は中国から近いことが優位性になっている。

    飲食:日本の飲食店は、舌の肥えた日本人を相手に競争してきた結果、非常にクオリティが高い。とりわけB級グルメは、ラーメン・牛丼・うどんのチェーンが世界を席巻している通り、圧倒的な国際競争力を持っている。

    性風俗:海外の性風俗は、本当に「ただやるだけ」らしい。それに対し日本の性風俗は、美しく優しい女性があの手この手で男心をくすぐってくれる(らしい)。

もちろん、この3つの産業が何もしなくても2040年に主力産業になるというわけではない。観光にはオーバーツーリズム、飲食には低生産性、性風俗には違法営業といった問題があり、改善していく必要がある。

現在、国は半導体産業の復活に向けて支援している。しかし、かつて日本の半導体産業が世界一だったのは、世界一の技術を持っていたからで、衰退したのは、技術の優位性がなくなったからだ。技術などの優位性を回復する見通しがない中でただ補助金をつぎ込むのは、「焼け石に水」だろう。

雇用維持を重視する国の政策は、どうしても国際競争力を失った昔の主力産業の延命措置になりやすい。それよりも、将来の雇用を生み出すよう、観光・飲食・性風俗といった産業の支援と改善に取り組むべきだろう。

 

(2023年6月5日、日沖健)