株式投資の世界には多数のアナリストがいて、日々、市場に関するレポートやコメントを発信している。中でも私の一番のお気に入りは、元・日興証券の馬渕治好さん。東洋経済オンラインに隔週で記事を発信し、複雑なマーケットの動向をわかりやすく解説している。
馬渕さんは、東京大学理学部数学科とマサチューセッツ工科大学経営科学大学院を出た超秀才である。が、その頭脳明晰な馬渕さんの相場予想は、ちっとも当たらない。今年、日経平均は年初から好調で、すでに13%上げているのに対し、馬渕さんは、以下の記事のタイトルの通り、一貫して下落を予想している。
「日本株売りと円高ドル安の同時進行に注目」(1/16)
「楽観的すぎる日米の株価は調整に向かいそうだ」(1/30)
「方向感のない米国株式市場を読む2つの重要指標」(2/13)
「日経平均への下落圧力がジワジワ強まってきた」(2/27)
「盛りすぎた日本株上昇論が行き詰まりそうだ」(3/13)
「日米の株価が今後も下落基調にあると見るわけ」(3/27)
「日米の株価はやはり年央にかけて下落しそうだ」(4/10)
「日本株の先行きが一段と危うくなってきた」(4/24)
「のほほんと上がっている日本株の先行きが心配だ」(5/6)
結果的に、「お見事!」としか言いようがないくらいの外しっぷりである。馬渕さんの予想と逆の取引をすれば、すごく儲かりそうだ。
頭脳明晰な馬渕さんが、どうしてこんなに外しまくるのだろうか。おそらく、頭脳明晰であるが故に、自分の予想のロジックに自信を持ちすぎて、マーケットでよく起こる予想外の変化についていけないのだろう。記事を読むと、頭が良い人に特有の「俺が正しい、現実の世の中が間違っている」というニュアンスが端々に感じられる。
だったら、どうして私は、予想が当たらない馬渕さんのことを好きなのか。ちなみに、馬渕さんと交代で東洋経済オンラインの記事を担当している平野憲一さんは、予想が割と当たるのだが、個人的には好きではない。
私は、自分の判断で投資をすることにしており、アナリストの予想に基づいて取引することはない。アナリストの「分析」(まさにアナリシス)を参考にしているだけで、「予想」はまったく気にしていない。「予想」はからっきしの馬渕さんだが、データや裏付け取材に基づく市場の「分析」に関しては、数多のアナリストの中でピカイチだと思う。
ところで、コンサルタントとして活動していると、これと似た経験をする。私がクライアントの問題についてあれこれ分析し、クライアントは私の説明を「ふんふん、なるほど」と聞いてくれる。しかし、私の「こうしましょう!」という提案は軽くスルーされ、クライアントは後で提案とはまったく違う施策に取り組んでいたりする。
では、私のことをクライアントが「当てにならない提案ばかりでけしからん」「くそコンサルタントめ、金返せ」と怒っているというと、そうでもない。別の問題があると、「日沖さんの分析・見解を聞かせてください」と依頼してくる。そういう経営者は「どういう手を打つかは自分で決めるから、提案よりも分析・見解が重要」ということだろう。
コンサルタントは、よく「コンサルティングでは成果がすべて」と言う。ここで言う「成果」とは、クライアントの「成長・発展」と考えるのが一般的だ。ただ、「成長・発展」に繋がるコンサルタントの貢献(提供価値)というもう少し具体的なレベルでは、色々な答えがあるということだろう。
当てにならない私の与太話を喜んで聞いてくれるクライアントがいるのを見ると、コンサルタントの貢献とはいったい何なのかと、ふと考え込んでしまう。
(2023年5月15日、日沖健)