ロシアのウクライナ侵攻から1年

先週24日、ロシアがウクライナ侵攻を始めて1年が経った。当初、ロシアはウクライナを短期間で征服する腹積もりだったが、ウクライナの抵抗・反撃で戦線は膠着し、長期化している。

以下、1年経った現時点での雑感を3点と今後の予想である。

第1に感じたのは、専門家の予想は当たらないということだ。2021年冬からロシアはウクライナ国境に兵力を移動させていたが、ほとんどの専門家は「ウクライナを威嚇しているだけで、実際に侵攻することはない」と予想していた。侵攻が始まりロシア軍がキーウに迫ると、「ゼレンスキー政権は近く崩壊する」と予想した。いずれも大外れだった。

なぜ専門家の予想は外れるのだろうか。専門家、とくに学者は、過去の情報を集めて、過去の延長線上で将来の展開を予想する。株式投資で言うトレンド分析だ。平時にはトレンド分析がそこそこ有効だが、過去にない不確定要素が現れる非常時には有効ではないということだろう。

2に、人は限定合理的に意思決定するという点だ。限定合理的とは、完全に合理的でも非合理的でもなく、一定の条件の下で合理的に意思決定するということである。プーチンは、「大ロシアの復活」という目的のために、経済合理的でない戦いに踏み切った。ゼレンスキーは、侵攻開始前の国土をかなり取り戻したのに、「国土を完全に取り戻す」として停戦交渉を拒否している。

プーチンもゼレンスキーも、国家・国民の経済的・物質的な利益よりも、国家の大義や国家の存続を優先している。長く独立を維持してきた日本では、政治家も国民もあまり国家を意識しないが、常に国家の存続が脅かされてきた東欧諸国では、国家の大義や国家の存続が重要なのだろう。第1に挙げた「専門家の予想が当たらない」という理由の一つがここにある。

3に、国家・国民は、過酷な状態にかなり長い期間耐えられるという点だ。ウクライナは、「ひとたまりもない」「長期戦は経済的にもたない」という予想を覆し、かれこれ1年間、悲惨な状態に耐えている。ロシアでも、インフレなど国民生活に影響が及んでいるが、国民は至って平静だ。

思い起こせば日本も、194112月に開戦し、19426月のミッドウェー海戦で大敗北して敗戦が必至になったが、そこから終戦までかれこれ3年以上も耐えた。日本と違って、ウクライナには欧米諸国からの軍事的・経済的な支援があるし、ロシアは天然資源や穀物が豊富で、ともに耐久力は高い。戦いはかなり長期化すると覚悟するべきだろう。

今後に関して懸念されるのは、欧米諸国の足並みの乱れだ。今はウクライナ支援で欧米諸国が結束しているが、長期化すると、足並みが乱れ、支援が縮小に向かうかもしれない。とすると、数年後にウクライナが先に音を上げ、ロシアが粘り勝ちするという可能性がある。

そうならないように、ウクライナ・欧米諸国としては、向こう半年以内とか短期で決着を付けたいところだ。軍事的な支援を増強してロシアを駆逐するのが正攻法だが、プーチンを斬首する、反体制派による政権転覆を支援する、といった思い切った策を検討する段階に来ていると思う。

 

(2023年2月27日、日沖健)