先週木曜日からシンガポールに来ている。海外旅行は、3年ぶりである。シンガポールには会社勤務時代の1998年から3年間駐在し、その後も数年おきに訪問しているのだが、コロナ明けの久しぶりの訪問ということで、色々と感じることがあった。以下、雑感を3点。
第1に、マスクの着用。シンガポールでは、マスクの着用率は場所によって違い、屋外では2~3割、商業施設の中では4~5割、地下鉄の中では9割以上という感じである。すでに昨年8月から室内での着用も任意になっていることや年中最低24~最高32度という暑さを考えると、「意外と着ているな」という印象だ。
シンガポール人の知人Josephine Teoさんによると、マスクの着用についてとくに国民の間で議論にはなっておらず、「適当に個人で判断していますよ」とのことだった。5月8日の緩和に向けて議論が沸騰している日本とは、かなり違っている。
第2に、物価高。元々シンガポールは物価が高いことで有名だが、昨今の円安の影響で今回はさらに高く感じられた。セブンカフェのコーヒーは、日本では110円だが、現地では1.9ドル=190円した。他のものも、だいたい日本の1.5倍から2倍という感じだった。
日本では、昨年のガソリン補助金のように、政府に物価対策・支援を求める国民の声が大きいが、Josephineさんは「頑張って働いて、稼ぐしかないでしょ」と語っていた。(彼女がシンガポールの標準とは限らないが)政府が強力で「準社会主義国家」ともいわれるシンガポールの方が、政府に頼らず自力で物価高に立ち向かっているのには、ちょっと考えさせられた。
第3に、人間の記憶の不可思議さである。25年前いつも通勤で使っていた地下鉄の出口をまったく忘れていた一方、どこの中華料理店でどういうメニューを注文し、どういう粗相をしたというくだらないことを実にしっかり覚えていた。
人間の記憶には、地名・人名など言語化された記憶だけでなく、視覚・聴覚・味覚・嗅覚などの記憶もある。街角の食堂やショッピングセンターで嗅ぐ匂いの記憶は、しっかり覚えていた。私の記憶の中で最も鮮明かつ正確なのは、嗅覚のようだが、他の人はどうなのだろうか。
ところで、「海外旅行は3年ぶり」と書いたが、一昨年オンラインツアーでモンゴルに行ったことを忘れていた。リアルではなかなか見られないモンゴルの遊牧民の生活を観れて面白かったものの、正直かなり物足りなかった。オンラインツアーを否定するわけではないが。実際に現地の空気を吸って、匂いを感じ取ることが旅行の大切な要素だと思う。
今回、久しぶりだからというだけでなく、「海外旅行って良いものだ」と心から感じた。コロナ環境下でご近所を散歩し「あ、こんなところに花が咲いていたんだ」といった小さな発見をするのも楽しいが、いつもと違った空気を吸い、いつもと違った人と触れ合うのは、人生を豊かにするかけがえのない体験だと思う。海外旅行が早く完全復活し、日本人が存分に豊かな体験をできるようになることを願いたい。
(2023年2月6日、日沖健)