健康寿命と資産寿命

「人生百年時代」である。令和3年の日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳だが、これは戦中・戦後の大混乱期に幼少時代を過ごした世代が「若死」してしまっているためだ。それ以降の医療・衛生・栄養など恵まれた環境で生まれ育った世代は、成人病にさえ気を付ければ、普通に100歳まで生きるだろう。

企業は、従業員が100歳まで生きることを前提に人事制度を組み立てる必要がある。差し当たって問題になるのは、定年制だ。

高齢者雇用安定法に基づき、企業には従業員を65歳まで雇用する義務が課されている。そして、この雇用義務の努力目標が70歳に引き上げられた。現在、55歳前後で役職定年、60歳で定年という企業が多く、70歳まで雇用するとなると、定年・役職定年から10年・15年という長期間、従業員を飼い殺しにすることになる。人件費を払う企業にとっても、疎まれながら働く従業員にとっても不幸なことだ。

人間70歳にもなると、能力・体力・財産状態など個人差が大きく、定年制で一律に処遇するのは無理がある。定年制は、年齢による差別であり、アメリカでは違法だ。日本でも、定年制を廃止し、年齢によらずに雇用する仕組みを導入することが、企業にとって大きな課題になる。もちろん、国が関連法制を整備することも重要だ。

一方、100歳まで生きる個人にとって問題になるのが、2つの寿命だ。一つは健康寿命、もう一つは資産寿命である。

健康寿命とは、日常生活に制限がない期間のことで、令和元年の時点で男性72.68年、女性75.38年である。よく「ピンピンコロリ」と言われるが、実際には人生の最後の約10年間は、家族や介護士など他人に迷惑を掛けて生きるわけだ。生命寿命の長期化に対応して、健康寿命をいかに延ばすかが、個人の課題になる。

ポイントは、早期の対策だ。後期高齢者になってから慌てて対策をしてもダメで、現役の頃から健康に留意して節制するべきである(私は健康のことは詳しくないので、良いアドバイスがあったら教えていただきたい)。

資産寿命とは、老後の生活を営んでいくにあたって、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間のことだ。定年後は年金収入しか当てにできなくなることから、野垂れ死にしないためには、①定年までに十分な資産を形成しておく、②年金以外の収入を確保する、という対策が必要になる。

このうち②について、最近は国を挙げて「定年後も働こう」の大合唱だが、体力・気力が落ちた後期高齢者が現役時代と同じように働くというのはいかがなものか。それよりも、株や不動産などへの投資収益を目指す方が現実的だ。とくに、縮小する日本の不動産に投資するよりも、株で国際分散投資するのが長い目で見てお勧めだ。

株式投資では、「一発当てよう」と思わず、時間と銘柄の分散を心掛けたい。また、長期的には複利の効果が働くので、できるだけ早くスタートを切って、途中で株価が下がってもあきらめず相場に居続けることが大切だ。

つまり、健康寿命についても資産寿命についても、定年後に慌てて対策を考えるのではなく、現役世代の頃から対策を考え、スタートを切ることがポイントである。高齢化は、高齢者の問題ではなく、むしろ現役世代の問題なのだ。

新年に当たり、今年の目標を考えるという方が多いだろう。現役世代の方は、仕事の目標とともに、健康寿命と資産寿命を延ばすための目標を考えることをお勧めしたい。

 

(2023年1月2日、日沖健)