次から次、また次と悪事が発覚する、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー契約を巡る汚職事件。世界に夢と希望を与えるはずのオリンピックが不信と幻滅を呼んでいるのは、何とも残念なことだ。真相の究明、厳正な対処、再発防止を望みたい。
ところで、今回の事件は、政府が目指している2030年冬季五輪の札幌招致に打撃を与えている。一連の事件を受けて、札幌五輪について、世論は「論外だろ」「薄汚れたオリンピックはもうたくさん」という否定的意見が大勢だ。東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子元会長は12月1日「(札幌五輪招致は)非常に厳しい」との認識を示した。
という現状を重々承知しつつも、私は敢えて札幌五輪の招致に期待したい。札幌五輪招致によって、札幌が世界のウィンタースポーツのメッカになり、日本の観光産業をけん引する可能性があるからだ。
いま日本の産業の多くが、少子化・人口減少で市場が縮小し、働き手もいない日本から脱出している。1990年以降、電機など輸出型製造業が生産拠点を海外に移管した。自動車も、早晩日本を見捨てるだろう。内需型産業は国内に残るが、今後も成長を見込めるのは医療・介護くらいだ(2050年以降は高齢者が減るので、向こう30年間の話)。この絶望的な状況で、内需も外需も取り込める観光産業への期待は大きい。
いま、地球温暖化による雪不足で、冬季五輪を開催できる都市がどんどん減っている。中国・北京は、2008年の夏、2022年の冬と世界で初めて同一都市で夏冬両方のオリンピックを開催したが、雪のない北京での無理くりの冬季大会開催は、選手に大不評だった。中国のゴリ押しに屈したIOCに、強い批判が集まっている。
カナダのウォータールー大の研究チームによると、もし温暖化対策が進まなければ、過去に冬季五輪を開催した21都市のうち、今世紀中盤には開催できるのはレークプラシッド、リレハンメル、オスロ、札幌の4都市に減り、今世紀末には札幌だけになるという。4都市の中でも札幌は、200万都市の中心部から車で20分でジャンプ競技場に行けるという利便性などで、他を圧倒している。
IOCにとって、冬の大会を安定的に開催できなくなるのは頭の痛い問題で、是非とも札幌に開催して欲しいと願っている。ならば、次回2030年と言わず、恒久的に冬の大会を札幌で開催することをIOCに提案してはどうだろう。IOCの窮状を考えると、うまく交渉すれば十分に実現可能ではないだろうか。
テニス=ウィンブルドン、ゴルフ=オーガスタのように、ウィンタースポーツ=札幌ということになれば、札幌のブランド価値が飛躍的に上がる。いまはニセコにオーストラリア人がスキーをしに来ている程度だが、世界中のウィンタースポーツ選手・ファンや観光客が北海道に殺到するようになる。オリンピックの恒久開催を前提に観光開発すれば、数十兆円規模の経済効果を期待できるのではないか。
問題は、やはり国民の世論だ。私は「それはそれ、これはこれ(東京は東京、札幌は札幌)」と割り切って考えているが、まったく少数派のようだ。「連座」や「連帯責任」に慣れ親しんだ日本人は、「ダメなものはダメ」とバッサリ切り捨てそうな雲行きである。
東京五輪・パラリンピックに対する怒りはごもっともだが、一時的な感情で千載一遇のチャンスを逃すことがないよう、切に祈りたい。
(2022年12月19日、日沖健)