中国の共産党大会が23日閉幕した。習近平国家主席(以下、習近平)が、2期10年を原則として世代交代を進めてきた慣例を破り、異例の3期目に入ることが決まった。長年の慣習を破ったこと、独裁体制を強化したこと、後継者を明示していないことから、「習近平は死ぬまで国家主席を続けるのでは?」という憶測を呼んでいる。
今回は、習近平政権がどういう終わり方をするかを考えてみよう。考えられる主なシナリオは、次の4つである。
シナリオⅠ・もう1期ないし2期で自発的に引退する
シナリオⅡ・台湾統一を花道に引退する
シナリオⅢ・死ぬまで国家主席を続ける
シナリオⅣ・失脚
各シナリオの内容、可能性、そして日本や世界への影響を考えてみよう。
まず、シナリオⅠの内容。今回、異例の3期目に入ったことで、習近平は毛沢東主席と並ぶ指導者となった。権力欲・名誉欲が強い習近平は、このことにかなり満足している可能性がある。現在習近平は69歳。74歳になる第3期の終了か、79歳になる第4期で気力・体力の衰えを自覚し引退するかもしれない。
シナリオⅡは、いわゆる「花道論」である。アメリカを超えて世界一の強国になるという花道もあるが、台湾を武力で統一し、その歴史的な成果を以て引退するのが、習近平国家主席にとって最高の花道である。
シナリオⅢは、習近平の権力欲・名誉欲、さらに優越欲が異常に強い場合である。毛沢東に並ぶ存在になったことだけでは満足できず、毛沢東を超える存在になることを目指して、延々と職に居座り続ける。
シナリオⅣは、何らかの国内勢力が政治クーデターを起こし、習近平を排除することだ。その引き金としては、台湾統一に失敗した場合や経済が危機的な状況に陥った場合が考えられる。
どれが可能性が高いだろうか。私は習近平の性格を熟知していないので判断が難しいが、高い順に、Ⅳ→Ⅰ→Ⅱ→Ⅲだと思う。ちなみに、習近平国家主席の希望は、Ⅲ→Ⅱ→Ⅰ→Ⅳであろう(いずれも、ⅠとⅡの順は微妙)。
現在の盤石な政治体制を見ると、「えっ、失脚はないでしょ」と思うかもしれないが、そうだろうか。5~10年という期間で考えると、4つのシナリオの中で最も可能性が高いと確信する。
現在、習近平体制が盤石なのは、長く経済成長が続き、国民が「共産党の指導で我々の生活が良くなった」「このまま成長が続けば世界一の強国になれる」と信じていることによる。しかし、最近の急激な経済失速・人口減少・高齢化で、アメリカ超えが難しくなった。不動産バブル・不良債権など中国経済崩壊のマグマは溜まっており、何が起きてもおかしくない。
日本や世界にとって好ましいのは、Ⅰ→Ⅳ→Ⅲ→Ⅱか。これから確実に下り坂の中国経済。第二次世界大戦のときの日本のように、習近平が「まだ国力があるうちに台湾の武力統一に打って出よう」と決断するのが、日本・世界にとって最悪のシナリオだ。
もちろん、すべては習近平の考え方次第。日本は、すべてのシナリオがありうるという前提で備えを進めなければならない。差し当たり、ウクライナをしっかり支援し、ロシアの野望をくじき、「侵略戦争は割に合わない」と中国に思い知らせる必要がある。
(2022年10月31日、日沖健)