マスク着用がもたらす人間関係拒絶社会

WHOテドロス事務局長が9月14日に「コロナの終わりが視野に入ってきた」と述べるなど、世界はアフターコロナに舵を切っている。日本でもようやくコロナ第7波が収束したのだが、マスクに関しては、街を歩いている人の8割、交通機関や施設の中ではほぼ100%が着用しており、依然として緊急事態モードが続いている。

日本人がマスクを着用し続けるのは、感染予防というよりは、「他人から白い目で見られたくない」「他人に表情を見られたくない」「化粧が不要で楽」といった他人を意識した理由だろう。一部には、「日本人は永遠にマスクを外せないのではないか」という見解が出始めている。

マスクの議論では、よく「そんなの個人の自由。外したい人は外せば良い、着けたい人は着ければ良い」と言われる。ただ、この「着けたい人は着ければ良い」という意見は、マスクの弊害を軽視しているのではないだろうか。

マスクの弊害というと、呼吸困難や熱中症、子供の発達障害など健康面への悪影響が指摘される。無論、それらも重大なのだが、もっと深刻なのは人間関係の構築を困難にすることではないだろうか。愚問を2つ。

お見合いパーティーで男女が集まっている。マスクをずっと着けている人と外している人で、どちらがモテて、結婚に至る確率が高いだろう?

ある会社に2人の営業マンが売り込みに来た。提案内容が同じだとして、マスクをずっと着けている営業マンと外している営業マンで、どちらが受注する確率が高いだろう?

マスクをしている相手の表情を読み取れない。表情が読み取れないと、相手が何を考えているかよくわからない。人は、何を考えているかわからない相手に愛情や信頼を抱かない。愛情を抱かない相手と結婚することはほぼない。信頼できない相手と大事なビジネスをすることもほぼない(簡単なビジネスなら話は別)。

マスクは人間関係が深まることを妨げ、個人の生活やビジネスに重大な悪影響を及ぼすのだ。「緊急事態だから」と見過ごされてきたが、コロナ発生から2年も経ち、永遠にマスクを外せないと懸念される状況で、看過できない問題である。

現在、厚生労働省は、屋外や屋内でも距離を確保でき会話しない場合、「マスク必要なし」としている。この「必要なし」という言い方だと「着けてもOKなのね」となってしまい、日本人はなかなかマスクを外せない。「マスクは原則禁止」とし、どうしても必要な時のみ着用するという方針に転換することを望みたい。

マスクに象徴されるように、日本は“人間関係拒絶社会”に向かっているように思う。テレワークを「上司に会わなくて済むのでラッキー」「飲み会がなくなって快適」と歓迎する意見が多い。全国に75万人の引きこもりがいて、ゲームをして楽しく過ごしている。生涯未婚率は男性28.3%、女性17.8%に達し、多くのお一人様が快適に暮らしている。

もちろん、人間関係拒絶社会に苦しむ人もたくさんいる。テレワークの孤独な環境で精神に変調をきたす人が増えている。宗教に救いを求める人は、孤独に悩んでいるケースが多いに違いない。孤独は、喫煙、過度の飲酒、肥満を上回るリスクがあると言われる。

イギリスは2018年に世界で初めて「孤独担当大臣」を設けて、孤独対策に力を入れている。今日、召集される秋の臨時国会でせっかく宗教と政治の関係を議論するなら、怪しい新興宗教が蔓延る原因である孤独・人間関係拒絶社会の問題にもメスを入れて欲しいものである。

 

(2022年10月3日、日沖健)