20年前、石油会社を辞めてコンサルタントを始めた当時、コンサルタントはかなり特殊な職業だった。その後、多くの日本企業がコンサルタントを起用するようになり、コンサルティング業界は大きく発展した。では、日本のコンサルティング業界が本場のアメリカと同じ状態になったかというと、まだまだ大きな違いがある。
今回は、日米のコンサルティング業界の違いを、供給と需要の両面から確認しよう。なお、日米では企業のコンサルティング利用頻度=市場規模が1ケタ違う(中小企業では2~3ケタ)のだが、ここでは質的な違いを中心に考察する。
まず、供給面。アメリカでは、コンサルタントになるのに、決まったキャリアコースはない。私が留学したアーサー・D・リトル経営大学院の教員のように、「大手ファームのコンサルタント」「個人コンサルタント」「大学教員」「起業家」「大手企業のマネジャー」の5つを自由かつ頻繁に行き来していた(本欄「ピータースコットモーガン先生のご逝去に寄せて」参照)。
一方、日本ではコンサルタントのキャリアコースは、①一流大学の学生が直接あるいは大手企業を経由して20代・30代で大手ファームに入社、②会社員が定年近くまたは定年まで企業勤務してコンサルタント独立開業、という2パターンである。若手の大手ファームのサラリーマン・コンサルタントと高齢の個人コンサルタントに二極分化している(もちろん例外はいる)。
キャリアが流動的なアメリカでは、マイケル・ポーターやクレイトン・クリステンセンといった著名学者が自らの理論を実践するためにファームを立ち上げ、業界のレベルアップに貢献している。それに対し日本では、大手ファームの激務に疲れ果てたコンサルタントが安住の地を求めて大学教員になるだけで、大学教員がコンサルタントに転身して成功したという逆はない。
需要面でも大きな違いがある。アメリカでは、大手企業だけでなく、中堅・中小・零細企業、はては一般個人まで有料でコンサルティングを利用している。私がアメリカに留学していた1997~1998年はITビジネスの勃興期で、近所のオジサン・オバサンが「ネットショップを始めたいのでコンサルティングして」などと気軽に利用していた。
それに対し日本では、大手企業は箔付けのために大手ファームに億単位のコンサルティング料を払うが、中小・零細企業は国から補助金が出で実質タダになる場合しかコンサルティングを利用しない。中堅企業や一般個人は、コンサルティングとはほぼ無縁だ。
日本では、こうした硬直化した供給面・需要面の構造がコンサルティング業界の質の向上を妨げ、引いては市場の量的拡大も妨げている。
では、日本のコンサルティング業界をどう改革するべきか。ここで問題は、国の補助金だ。国が中小企業のコンサルティングに補助金を与えるので、多くの中小企業経営者は「コンサルティングは国から金をせしめてタダでやってもらうもの」という認識で、有料のコンサルティングが普及しない。また、補助金業務の報酬は1日数万円という超低価格なので、現役世代はコンサルタントとして独立開業することを躊躇する。
コンサルティング業界の健全な発展のためには、国のコンサルティングへの補助金を廃止するべきだ。が、さすがにこれは現実的ではない。とすれば、補助金業務は企業内に勤務する中小企業診断士・税理士・社労士といった有資格者にボランティアで担ってもらい、プロのコンサルタントには有料で民間業務に専念してもらうという役割分担にしてはどうだろう(と昨年、中小企業庁に提言した)。
コンサルティング業界というと「マイナーな話」と思うかもしれないが、コンサルタントを媒介して学界と実業界が密接に繋がるアメリカと学界・実業界・コンサルタントが分離している日本では、国家経済の発展という点でも落差が大きい。コロナ禍で「なんでも補助金」の時代に、改めて考えたい重要課題である。
(2022年8月1日、日沖健)