全国各地の学校で子どもが熱中症で救急搬送される事案が相次いでいることを受け、文部科学省は10日、都道府県教育委員会などに対し、体育の授業や部活動の運動中、登下校時はマスクを外すように指導を徹底することを求める事務連絡を出した。
炎天下でマスクを着用して熱中症になる確率とマスクを外してコロナに感染する確率を比べると、前者の方が何億倍も高いだろう。とりわけ高齢者は体温調整機能が低下しており、炎天下のマスク着用は、まさしく自殺行為だ。
ここで気になるのは、文部科学省は5月にも「マスク着用の必要はない」という通達を出しているが、今回も「マスク着用禁止」ではないことだ。厚生労働省の基本方針も同様だ。「必要はない」だと「着けたい人は着けてもよい」となって、多くの人が着用し続けるのではないか。
読売新聞社が先週5日公表した世論調査によると、マスクを「できるだけ着けたい」が41%、「必要なときだけ着けたい」が49%、「できるだけ着けたくない」が9%だった。41%もの日本人が、マスクをいやいや着けているのではなく、好きで着けているらしい。明確に「禁止」しないと、炎天下でマスクを着用する人が減らず、熱中症の被害は減らない。政府には早急に「禁止」を打ち出してほしいものだ。
ところで、外国では、日本よりもはるかにコロナの被害が少ないのに、ほとんど誰もマスクをしていない。41%もの日本人が好んでマスクをしているということは、日本人は世界でもまれなマスク愛好民族だと言える。なぜ、日本人はこんなにマスクを愛しているのだろうか。
「日本人は衛生観念が高いからだ」とか、「化粧や髭剃りが不要で楽だからだ」とか色々と言われているが、私は少し違った見方をしている。日本人は、自分に自信がないからだと思う。
口は、目とともに、その人に関する重要な情報源だ。マスクなしだと、自分のことを周りの人にさらけ出すことになる。ルックスもそうだし、喜怒哀楽といった感情も、相手に丸わかりだ。一方、マスクを着用すると、美人なのかブスなのか、怒っているのか悲しんでいるのか、相手はよくわからない。
自分に自信がある人は、相手に自分のことをもっと知ってもらいたいと思う。「私ってこんなに美人なのよ」「俺はいま最高にハッピーだ。君も一緒に楽しもう」。相手に自分のことを知ってもらう上で、マスクは邪魔だ。できれば外したい。
自分に自信のない人は、相手にできるだけ自分のことを知られたくない。「ブスだと言われたくない」「自分の考えを否定されたくない」。そういう人にとって、口元を隠せるマスクは、最高のアイテムだ。コロナに関係なく、できれば着用したい。
個人的に心配しているのは、「必要なときだけ着けたい」という49%の人たちだ。人は、思考して行動するのが普通だが、逆に行動が思考を規定するということもある。いつまでもマスクが「必要」で、マスクで自分を隠すのが当たり前になると、素顔で自分をさらけ出すのが億劫になり、やがて恐怖心が芽生え、自分に自信が持てなくなってしまうのではないか。
正確な統計はないが、自分に自信がある人の方が、自分に自信がない人よりも人生で成功し、幸せに暮らす確率が高いだろう。国民も政府も、「たかだかマスク」と思わず、マスクの弊害をしっかり直視したいものだ。
(2022年6月13日、日沖健)