イケてない社長の口癖③「一切~ない」「~しかない」

業績不振の「イケてない社長」の口癖を紹介するシリーズの第3回(第1回第2回)。今回は、不都合な事態に直面したときによく発する、「一切~ない」「~しかない」。

事業をしていると、業績不振・トラブル・不祥事など、色々と不都合なことが起こる。不都合なことが起こったら、経営者は利害関係者に状況を報告し、対応を説明しなければならない。

ここで、能力・意欲が低い「まったくイケてない社長」は、報告・説明から逃げて済ませようとする。どうしても報告・説明しなくてはならなくなると、「これはわが社が悪いんじゃない」と他人や外部環境のせいにする。あるいは、「この程度の不祥事、おたくらにだってあるだろ!」と逆ギレする。まったく始末に負えない。

これに対し、割と良さげなことを言うし、ちゃんと仕事をしている感じなのになかなか業績が上がらない、「なぜだかイケてない社長」は、「当社の従業員は、お客様にご迷惑をかけるようなことは一切しておりません」などと、強い調子で「一切~ない」と言う。また「この難局を乗り切るには、コスト削減で耐えるしかない」という具合に、「~しかない」と言い切る。

こうした断定的な言い方は、経営者の自信の表れと見ることができ、まんざら悪いことではない。言い切った方が良いという場面もある。ただ、困った事態に直面した経営者から条件反射的に「一切~ない」「~しかない」に言われると、聞いている方は不安になってしまう。

たとえば、従業員がお客様に「一切」迷惑を掛けていないと言い切るには、過去の従業員の行動すべてをチェックする必要があり、事実上不可能だ。「調査した範囲では」「私の知る限り」といった制限を付けずに「一切」と言い切るのは、厳密には嘘を付いていることになる。

わかりもしないことを自信満々に言い切る「なぜだかイケてない社長」は、虚勢を張る性格で、利害関係者から信頼を得ることができない。事態を直視し、慎重にものごとを考える習慣がないわけで、調子よく事業を展開しているときは良いが、ちょっとつまずくと立て直すことができない。

それに対して業績好調な企業の「イケてる社長」は、困った事態の因果関係を丁寧に説明する。その場でわからないことがあったら、あやふやにせず、「調べて後ほどお知らせします」と対応する。そして、考えうる対応策を列挙し、自分はどういうことを大切にするのかを明らかにして、明確に対応方針を示す。

要は、「まったくイケてない社長」や「なぜだかイケてない社長」と「イケてる社長」の違いは、どこまで不都合な事態を我がこととして、しっかり向き合えているか、ということだ。

コロナだけでなく、自然災害・円高・インフレなど、困った事態が尽きない難しい時代である。もし皆さんの会社の経営者が「一切~ない」と「~しかない」を口癖にしているようなら、この文章をプリントアウトしてそっと経営者の机に置いてみてはどうか。態度を改めれば良いが、犯人捜しを始めるようなら、さっさと転職することをお勧めしたい。

 

(2022年5月23日、日沖健)