企業の地方移転は進むのか?

人材サービス大手のパソナが2024年5月までに本社を淡路島に移転することになり、話題を呼んだ。またコロナ禍で地方に移住する人が増えているという。企業は東京を脱出し、地方を目指すのだろうか、それとも東京に留まり続けるのだろうか。

先日、英ファイナンシャル・タイムズ紙から、「今後、日本では企業の地方移転は進むのか?」というテーマで取材を受けた。その取材でお伝えした私のコメントの要旨を紹介しよう。

今後を占う前に、動機に着目して企業の地方移転を以下の4つに分類した。

ü  コスト削減型:安いコスト(人件費・賃借料・税金)を求める。例)コールセンター

ü  市場開拓型:地方で新たな市場を開拓する。例)北海道日本ハムファイターズ

ü  ES型:地方の職住近接、住環境の良さなどでESEmployees’ Satisfaction従業員満足)を高める。例)Far East Brewing

ü  BCP型:感染症や地震などを考慮し、BCPBusiness Continuity Plan:事業継続計画)対策を進める。例)パソナ

あくまで印象だが、日本では上から順に数が多い。ES型やBCP型は最近増えているが、まだまだ話題先行で、数としてはさほど多いわけではない。

では、それぞれが今後どうなるのか。

まずコスト削減型は、今後あまり増えないだろう。たしかに、地方が東京に比べて低コストであることは間違いないが、コールセンターや工場などはすでに移転済みである。市場開拓型と併せて、移転するなら地方でなく海外(とくにアジア)だろう。

市場開拓型は、今後大きく減るだろう。地方では人口減少が著しく、市場としての魅力がどんどん失われるからだ。

最近注目を集めるのがES型。しかし、このタイプはあまり増えないだろう。地方は、たまに旅行で行くのは良いが、住むには退屈だからだ(地方の方には申し訳ない!)。ファイナンシャル・タイムズ紙の東京支局の記者に「支局が淡路島に移転したら、どうしますか?」と聞いたら、「退職するでしょうね」と言っていた。

最後のBCP型は、今後、着実に増えるだろう。グローバル化に伴い、1990年代以降30以上の新しい感染症が流行しており、コロナが終わっても別の感染症がやってくる。さらに日本では、首都直下型地震の懸念がある。BCP型の地方移転は、喫緊の課題だ。

以上から、企業の地方移転は今後もそんなに増えないという結論である。

ところで、下の2つの地方移転は、まだ日本ではほとんどないが、アメリカでは一般的なタイプである。

ü  クラスター型:クラスター(イノベーション創造を目的とした産業集積)に参加し、イノベーションを創造する。例)シリコンバレー

ü  リストラ型:従業員が転勤を嫌がって退職するように誘導する。

クラスター型が増えて日本経済を活性化させて欲しいが、どうだろう。「日本でもシリコンバレーを!」という掛け声がなかなか実を結ばないところを見ると、今後も厳しそうだ。

一方、リストラ型は増えて欲しくないが、懸念は大きい。正社員の解雇が厳しく制限され、会社命令による転勤の廃止がトレンドになりつつある状況から、リストラの「奥の手」として今後増える可能性がある。

クラスター型が増えれば日本の将来は明るい。リストラ型が増えれば日本の将来は暗い。今後も企業の地方移転には大いに注目だ。

 

(2022年4月26日、日沖健)