いま日本企業では、「メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ」という動きが広がっている。メンバーシップ型とは、職務や役割を明確にせずに従業員を雇用し、集団で働くという日本独特のやり方である。一方、アメリカなど多くの国で一般的なジョブ型は、職務や役割を明確にしたジョブディスクリプション(職務記述書)を交わして雇用し、従業員は記載された職務を遂行する。
富士通・三菱ケミカル・KDDIといった大手企業がすでにジョブ型を導入しているが、コロナ環境下で広がったテレワークと相性が良いこともあって、昨年からジョブ型へと転換する企業が増えている。
ジョブ型雇用で大きな問題になるのが、従業員の評価だ。ジョブ型雇用では、管理職による部下の評価が難しいとされている。ジョブ型雇用について訊ねた日経BP総合研究所の調査(2021年3月公表)によると、ジョブ型雇用の短所として回答者の59.7%が「管理職の評価能力に不安がある場合は、適切な運用が難しい」を挙げ、最多だった。
これまで日本企業では、職務を個人単位で明確にアサインせずに集団で担当し、評価にも明確に差を付けないやり方だった。こうした曖昧な働き方と比べてジョブ型雇用では、上司が部下の行動・能力・成果をきめ細かく管理する必要があると警戒されているようだ。
では、ジョブ型の大先輩であるアメリカでは、どういう管理をしているのだろうか。実は、アメリカでは伝統的に、上司が部下を評価するということ自体を避けてきた。人が人を正確に評価するのは難しく、どうしても上司の評価能力の不足や依怙贔屓によって不適切な評価が発生し、訴訟などの元になるからだ。
つまりアメリカでは、ジョブと報酬を明確に示して採用し、要求したことをできたら翌年もそのジョブをアサインする、できなかったかったらアサインせず、別のジョブをアサインするか、会社を辞めてもらう、という管理である。日本企業のアルバイトの管理に近いイメージだ。
ここで、日本企業には、2つの選択肢がある。一つは、従来通り上司が従業員の能力や職場での行動をしっかり観察し、評価し、それを報酬の決定や人材育成に反映させるというやり方、もう一つは、アメリカ式でアサインしたジョブで成果を実現できかどうかだけを確認するというやり方だ。
現状では、様子見で従来通りのやり方を続ける日本企業が多いようだが、テレワーク環境できめ細かい評価をするのは困難で、中間管理職の負担がますます大きくなる。中間管理職の疲弊、引いては離職という新たな問題が起こる(すでに起こっている)。
ならば、せっかくジョブ型雇用にしたのだからジョブのアサインだけでなく評価についてもアメリカ式にしようと一部の企業は動いている。ここで問題は、未経験者の新卒一括採用が支配的な日本では人材育成が重要で、人材育成が停滞してしまうことだ。
ということで、日本式もアメリカ式も一長一短で、どちらが絶対に良いとは言えない。今後、テレワークがどこまで普及・定着するか、新卒一括採用が崩壊するのか、といった動向も注視しながら、対応を考えていくことになる。
メンバーシップ型かジョブ型かという選択で、企業にとっては採用・評価・報酬・教育、社員にとってはキャリア形成や職務満足が大きく変わってくる。人事制度はなんとなく続けているものが多いので、どちらを選択するにせよ、人事制度のあり方を見つめ直すきっかけにして欲しいものである。
(2021年12月20日、日沖健)