このたび、『リアルな会社の数字が見えてくる、決算書・経営分析』というビジネス書を刊行した。ビジネスの必須スキルである決算書(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書)の読み方と決算書を使った経営分析のやり方を平易に解説している。是非お読みいただきたい。
ところで、本書は学生や若い社会人など初学者の読者を主に想定して書いたのだが、経理部門の担当者にも一読をお勧めしたい。大半の経理担当者は、業務を通して決算書の作り方は熟知しているが、読み方は意外と知らないし、まして経営分析のやり方をほとんど知らないからだ。
経理担当者の仕事の8割以上は、決算書を作成すること(と関連業務)である。もちろん、これは企業経営に欠かすことのできない重要な業務なのだが、悪い言い方をすると「できて当たり前」というものだ。今後AIが発達すれば、真っ先に代替されてしまうだろう。
では、経理担当者が社内で経営者や他部門にとって「頼りになる存在」になるためには、どうすれば良いのか。決算書を作成する会計手続きが財務会計であるのに対し、会計データを使って経営者や他部門の意思決定をサポートすることを管理会計という。経理担当者は管理会計に比重を移すべきで、その前提として会社の経営状態・問題点を決算書を使って分析する経営分析のスキルを身に付ける必要がある。
経営分析というと、多くの経理担当者が、経理システムから出力される経営指標を経営陣や他部門ばさっと渡す程度だ。経営指標を使って経営状態を分析し、報告しているという経理担当者は少ない。まして、事業の改革に繋がる有効なアドバイスをしているという経理担当者は稀だろう。
たとえば、CCCを使った効率性の改革。CCC(Cash Conversion Cycle、トリプルシー)は、企業がビジネスのオペレーションをどれだけ効率的に回しているのかを計測する経営指標だ。計算式は「CCC=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数」で、この値が短いほど、オペレーションを効率的に回していることを意味する。まだ日本ではあまり知名度が高くないが、世界中の有力企業がCCCの改善に取り組んでいる。
CCCについて確認すれば、経理担当者の実力レベルを簡単に評価することができる。低い方から順に以下のようになる。
① 「CCCってそれ何ですか?」とキョトンとしているのが「底辺」
② CCCを計算して経営者や他部門に報告するのが「初級」
③ CCCを計算・分析し、営業部門に「売上債権回転日数が前期比で5日長くなっていますよ」と警告するのが「中級」
④ 「顧客に早払いのインセンティブを出すなどして、回収サイト短縮に向けて取り組みましょう」と解決策を示して営業部門に働きかけるのが「上級」
経理業務はかなり特殊なので、経理担当者から専門用語を使って説明(や言い訳)をされると、「ああ、うちに経理担当者はしっかり仕事をしているんだな」と勘違いしてしまう。経営者の方には、経理担当者にCCCについて確認して欲しい。もし経理担当者が①だったら(かなり多いのではないか)、本書を読んで勉強させるか、さっさとお払い箱にするのが賢明だろう。
(2021年7月12日、日沖健)