目標を期待効果で区切るか、期限で区切るか

コロナ感染拡大を受けた3度目の緊急事態宣言が来週20日に期限を迎え、再々延長になるかどうか注目を集めている。約一か月後にオリンピックを控えてさすがに今回は単純に延長することはなさそうだが、どうなるのか国民は気をもんでいる。

ところで、過去3回の緊急事態宣言がいずれも当初の期限通りに解除できず延長や再延長になったことから、SNSやネット掲示板では「期限で区切るのではなく、ステージ3になったら解除するといった区切り方の方が良いのでは?」という意見をよく見受ける。目標をどう区切るべきか、という問題について考えてみよう。

たいてい目標には、こういうことを実現したいという「期待効果」といつまでに達成したいという「期限」がある。たとえば、企業が営業マンに新規顧客の獲得に向けて営業活動をさせる場合、「新規顧客を30件獲得したら活動終了」と期待効果で区切るか、「今月いっぱいで活動終了」と期限で区切る。どちらのやり方が適切だろうか。

目標を達成するためには、「よし、何が何でも顧客を獲得するぞ!」と達成意欲=モチベーションを高める必要がある。モチベーションを決定する要因は実に様々だが、とりわけ大切なのが目標達成の可能性だ。

その営業マンがこれまで月20件程度の新規顧客を獲得しているとしよう。「今月中に100件取れ」という目標を与えられたら達成可能性はゼロ%、「できっこない」ということでモチベーションは上がらない。一方「今月は1件だけで良いよ」と言われたら達成可能性はほぼ100%、「超楽勝」ということでモチベーションは上がらない。ゼロ%でも100%でもなく、「できるか、できないか」という目標水準でモチベーションが最大化する。

期待効果で区切るのと期限で区切るのでは、どちらがモチベーションが高まりやすいか。これは状況によってケースバイケースで、一般的な結論はない。営業マンの例で、期待効果を実現するのと期限までに行う活動のどちらの難易度がモチベーションが最大化するポイントに近いかは、仕事の内容・営業マンの能力・市場環境などによって変わってくる。

では、今回の緊急事態宣言の場合、どちらが国民の「しっかり感染対策をしてコロナに打ち勝とう!」というモチベーションを高めることができるだろうか。

ここで厄介なのは、緊急事態宣言の期待効果が不明確だという点だ。新規感染者数を減らすことか、コロナ病床の使用率を下げることか、はたまたオリンピックを安全に開催することなのか、政府の説明を聞いてもはっきりしない。また国民が自粛生活や感染対策に取り組むことがたとえば「ステージ3の実現」という期待効果にどう結びつくのか、専門家でも正確にはわかっていない。

この状況で「ステージ3を達成したら解除する」という区切り方をしたら、国民は目標達成に向けてどう行動すれば良いのかわからない。したがって、国民は「よし頑張ろう!」という気になれないだろう。

一方、「6月20日まで」と期限で区切ったらどうか。今回は3度目の緊急事態宣言なので、国民は期限までどう生活し、どう対策をすれば良いのか、かなりわかっている。国民は達成可能性を判断できるので、「6月20日まで」という期限が適切な難易度であれば、「不自由だけど、仕方ないから6月20日までは我慢するかな」となる。

つまり、緊急事態宣言の場合、効果実現で区切るのは不適切で、期限で区切るといういまのやり方が適切だと思われる。

ビジネスでは、企業が月ごと・年度ごとに予算管理をしているので、ほとんどの活動に期限がある。ところが、家庭・個人生活では、受験や就職のように期限がある目標は少なく、たいていの目標には期限がない。そのため「いつかは体重を10キロ減らしたい」「いつかは素敵な人と巡り合いたい」といった目標はなかなか実現しない。

かつてワタミの渡邊美樹会長は「夢に日付を」と言った。「体重10キロ減」の場合、「親友の結婚式に出る8月5日までに」と具体的に日付を設定するわけだ。渡邉美樹氏の名を出すと猛反発する向きもあろうが、「夢に日付を」はなかなかの名言だと思う。

 

(2021年6月14日、日沖健)