ビジネスパーソンに人気のMBAと中小企業診断士(以下、診断士)。
私は1998年にアメリカでMBAを取得し、2006年から2018年まで国内のMBAで講師をした。また1995年に診断士を取得し、2006年から現在まで中小企業大学校で診断士養成課程と実習インストラクター養成研修の講師をしている。そのため、多くの方から「MBAと診断士、取るならどっちですか?」という質問を受ける。最近リカレント教育(社会人の学び直し)の気運が高まっており、この質問がとみに増えている。
そこで今週と来週、実際にやり取りした質問・回答と解説で、MBAと診断士を比較・紹介しよう(なお、MBAは国内に限定する。診断士には色々な取得の方法があるが、独学または予備校通学で試験に合格した場合に限定する)。
Q.学力のレベルで見て、難易度が高いのはどちらですか?
A.診断士の方が断然難しいでしょう。MBAを取るには学力はさほど必要ありません。
MBAコースに入学すれば、ほぼ全員が修了し、MBAを取得できる。2000年頃から全国でMBAコースが次々と設置されたため、多くの学校で学生集めに苦戦している。慶応・早稲田・一橋・神戸といったトップ校は入試倍率が2倍以上だが、他は1倍台前半で、社会人経験があれば希望者がほぼ「全入」というコースが多い。学校名にこだわらなければMBAを取ること自体は実に簡単だ。
一方、診断士を取るには1次試験・2次試験・実務補習という3つの関門をクリアする必要がある。1次試験は7科目あり、合格するには2,000時間程度の学習が必要とされる。2次試験も合格率18%(2020年)とかなりの難関だ。最低限必要な学力という点では、診断士の方がはるかに上である。
ただし、現在、診断士制度の改革が検討されており、7科目すべてに合格しなくても何らかの資格を付与する方向である。近い将来、診断士の難易度がかなり低下する見込みだ。
Q.取りやすさについては、学力以外の要素もあるわけですね?
A.そうです。カネと時間の問題があります。カネと時間に関しては、MBAの方がハードルが高いと言えます。
まずカネについて、MBAコースの授業料は私立で120~430万円、国立でも100~150万円する。診断士は、受験料以外にほとんどお金を使わず取得することが可能だが、近年試験の難易度が上がっており、現実には試験合格組の大半が資格予備校に通って、数十万円を支出している。
ただ、MBAも資格予備校も教育訓練給付金の対象になっており、2年間で最大112万円が給付されるので、実質的な負担はかなり軽減される。
時間については、MBAは決まった時間に授業に出席しなければならないので、仕事や家庭生活がかなり制約される。夜間コースの場合、昼間の仕事と夜間の授業を両立するのは殺人的に多忙で、中退したり、体調・精神に不調をきたしてしまうことが珍しくない。
診断士に合格するには、数千時間の学習時間を確保する必要があるが、参考書を読んだり、予備校のビデオ講義を聞けば良いので、すき間時間を使ってマイペースで学習することができる。
Q.取得した後の維持・更新という点で、違いはありますか?
A.MBAは学位なので、他の学位と同じように、取ったら一生何もする必要はありません。診断士は5年間の有期制で、更新するには実務従事ポイントの取得という難関が待ち受けています。
診断士で注意したいのは、資格取得後も維持・更新が面倒だという点だ。5年の間に「知識の補充」と「実務の従事」という更新条件をクリアする必要がある。「知識の補充」は研修を受ければ済むが、「実務の従事」の方は中小企業に経営指導をするなど実務を担当し、所定のポイントを取得しなければならない。
企業に勤務者する診断士の多くは中小企業との接点が少なく、「実務の従事」ポイントの獲得に苦労している。せっかく資格を取得したのに、「実務の従事」のポイントがネックになって休止・停止してしまうという残念なケースを見受ける。
(2021年5月24日、日沖健)