いま菅首相が考えていること

最近のマイブームは「菅首相が何を考えているか推理すること」、名付けて“ガースー推理”である。不謹慎だが、新型コロナや東京オリンピックといった難題に直面する菅首相がどう意思決定するのかと思い巡らすのは、下手な推理小説を読むよりはるかに面白く、自粛生活の良い気晴らしになる。以下は、現時点の私の“ガースー推理”である。

まず、菅首相の最大の関心事は、自身の政権継続である。9月に自民党総裁選、10月に衆議院議員の任期終了を控え、自民党内でいつ「菅おろし」が起きても不思議ではない。菅首相は何とか事態を打開し、長期政権を築きたい。もちろんそのカギになるのは、新型コロナと東京オリンピックである。

新型コロナについては、緩い緊急事態宣言の発令→延長→停止→再発令→延長をオリンピック直前までダラダラ繰り返すという、「ウィルスを生かさず殺さず」が菅首相の戦略だ。今回の緊急事態宣言で菅首相は、はなから2週間で事態が沈静化するとは思っておらず、逆に短期間で何度も延長することが支持率アップに繋がると考えている。

昨年4月の1回目の緊急事態宣言では、多くの国民が延長に反対した。ところが、今年1月の2回目では「解除はまだ早い」「延長するべき」という声が多数派になり、3回目の今回は8割以上の国民が延長を支持している。つまり延長は国民の民意であり、菅首相は、延長の決定によって「我々の民意を実現するリーダー」と高く評価される可能性がある。

もちろん、国民は自粛生活にウンザリしており、小出しの緩い対策に「短期間でしっかり対策し、コロナを封じ込めろ」と批判が噴出するリスクはある。しかし、法的にロックダウンはできず、ワクチン普及が進まない状況で、コロナを完全に封じ込めるのは不可能だ。どうせ封じ込められないなら、緊急事態宣言を出して危機モードを演出し、「国民の生命のために延長します」と国民に寄り添う姿勢をアピールする方が支持率にプラスに働く。

東京オリンピックについては、1日数万人が新規感染するインドのような状態になるか、IOCが中止を決定しない限り、開催を強行する。本音では、オリンピック中止を決断して「国民を救ったヒーロー」と喝采を浴び、早期に解散したいが、是非ともオリンピックを開催したいアメリカの意向を無視できないだろう。

もし東京オリンピックが中止になったら、コロナ後に最初に開催される大国際イベントは、2022年2月の北京オリンピックになってしまう。すると中国は、世界に先駆けてコロナに打ち勝ったこと、アメリカに代わって世界の覇権を奪取したことを、北京で高らかに宣言するだろう。そうなっては困るバイデン大統領は、何がなんでも東京オリンピックを開催するよう、菅首相に強い圧力を掛けているに違いない。

現在、国民の8割が東京オリンピックの開催に反対している。ただ、祭りの前は静かでも太鼓が鳴ったら皆が躍り出すという日本人の国民性は、一昨年のラグビー・ワールドカップでも証明済みだ。とにかくオリンピックが始まり、池江璃花子選手がメダルを取れば、国民は6月までオリンピックに大反対していたことなどすっかり忘れるだろう。

ということで菅首相は、コロナの感染もオリンピック開催もそんなに心配していない。では、心配していることは何か。それは、小池都知事が7月の東京都議選のためにオリンピック中止を打ち出し、野党がそれに乗じて内閣不信任案を出し、オリンピック中止を争点に選挙戦を挑んでくることだ。

二階幹事長は、3月から繰り返し「不信任案が提出されたら、ただちに解散する」と明言し、野党をけん制している。緊急事態宣言明けに野党が内閣不信任案を提出したら、菅首相は解散に応じないわけにはいかない。9月以降に普通に選挙をすれば野党の勝ち目はゼロだが、オリンピックが争点になればかなり波乱含みになる。

菅首相としては、小出しの緩い緊急事態宣言を繰り返して国民にアピールする一方、野党に内閣不信任案提出のチャンスを与えず、何とか粘ってオリンピックを開催する。9月にはワクチン接種もかなり進んでおり、オリンピックで歓喜した日本人は衆院選で自民党に投票する。大勝した菅首相は、晴れて長期安定政権を確立する…。

と色々勝手なことを書いたが、皆さんの“ガースー推理”はいかに。そして、菅首相の本心はいかに。菅首相には、良い意味で私の推理を裏切って欲しいものである。

 

(2021年5月10日、日沖健)