中央省庁の役人と会ってみて

先日、ある中央省庁の役人3名と面談する機会があった。昨年末に私が提出した政策提言について「詳しい話を聞きたい」ということだったので、霞が関に出向いてディスカッションをした。久しぶりに霞が関に行き、役人とじっくりお話しして、色々と感じるところがあったので、少し紹介しよう。

まず、今回、一民間人の私に面談を依頼してきたこと、そして、よくある公聴会のような形式ばった面談ではなく、国家の将来について本音で語り合うことができたのが意外だった。中央省庁の役人というと、政治家の要望を聞くか、せいぜい○○総研を使って民間の動向を調査するくらいだろうと思っていた。しかし、行政の本来の顧客は国民。国民からもちゃんと意見を聞いて政策立案をしていこうというのは、素晴らしい姿勢だ。

古くは財務省の風変わりなしゃぶしゃぶ、数年前には財務省の安倍前首相への忖度、最近では総務省の通信事業者からの接待、厚生労働省の送別会など、中央省庁では不祥事・問題が相次ぎ、すっかり国民の信頼を失っている。こういう顧客志向の姿勢を続けて、なんとか国民の信頼を取り戻してほしいものである。

もう一つ、改めて「うーん」と唸ってしまったのが、中央省庁の猛烈な働き方だ。今回、中間管理職の方からメールで面談の依頼が来たのが22時頃、私が承諾のメールをすぐに返信し、お礼のメールが来たのはその日の深夜1時過ぎだった。その後も深夜のメールのやり取りが続いた。面談も夕方の開始だった。中央省庁のブラック労働は以前から悪名高いが、働き方改革などどこ吹く風という感じだ(それにお付き合いする私もブラックだが)。

心配なのは、この労働環境で優秀な人材が集まるのか、職員が辞めてしまわないかという点だ。東大生の中でもトップクラスの人材が中央省庁に集まってきたのは昔の話、今、東大生の就職一番人気は外資系コンサルティング会社に変わっている。中央省庁では、有望な若手・中堅の離職が増え、問題になっているという。もう少し効率的な仕事のやり方をした方が良さそうだ。

世間では役人バッシングが吹き荒れているので、今回、中央省庁の役人が国家の発展のために熱意を持って仕事に取り組んでいることに安堵した。と同時に、国家の発展に奉仕するという使命感だけを支えに、頭の悪い政治家に怒鳴られ、国民から蔑まれ、安月給で長時間働くというのは、かなり無理があるように感じた。

その点、世界中で中央省庁が最も機能していると言われるのが、シンガポールだ。シンガポールでは、民間企業のトップレベルの給与に合わせて役人の給与を決めている。これは、優秀な人材を獲得するため、また役人が収賄など不正を働かないようにするためだ。

優秀な人材が民間企業よりも中央省庁に集まるのが良いかのどうかは議論が分かれるところだ。ただ、シンガポールの圧倒的な成功を見ると、日本のやり方で本当に良いのか、疑問に思わざるを得ない。

先日、フランスでは、マクロン大統領が自身の母校であるエリート養成機関・ENA2022年に廃止することを決定した。事実上、特権階級しか入学できないという実態を改め、新しいエリート養成機関を作り、広く国民にトップ官僚への門戸を開くという。シンガポールは例外として、世界各国で中央省庁のあり方が揺れ動いているということだろうか。

日本では中央省庁というと、マスメディアや世論では不祥事ばかりがクローズアップされ、そのあり方や政治との関係などあまり議論されていない。小泉改革を最後に、大きな改革は進んでいない。中央省庁の改革が進み、日本が良い国になって欲しいと切に思った。

 

(2021年5月3日、日沖健)