中小企業診断士制度が大きく変わる

いま、中小企業診断士制度が大きく変わろうとしている。先週12月1日、菅政権下で発足した成長戦略会議の第5会合が開催され、その中で診断士制度のあり方が議論された。成長戦略の実行計画案には次のように記載されている。

「中堅・中小企業の経営を担うことのできる人材の裾野を広げていくため、中小企業診断士制度の在り方やその活用促進について、検討を深め、年度末までに結論を得る。」

これに先立って第14回・経済財政諮問会議(10月6日開催)で新浪剛史議員が、診断士制度について次のように言及した。

「経営人材の育成も非常に重要。例えば、中小企業診断士について、非常に意味のある資格だと思うが、・・・1次試験では7科目全てに合格しないと試験に通過できないなど、大変難易度が高いものとなっている。中堅・中小企業の経営を担うことのできる人材の裾野を広げていくためにも、例えば、中小企業診断士の科目にデジタル入れるとともに、全ての科目を合格しなくとも、税理士のように一つ一つの科目で合格しても何らかの位置付けを付与することを考えてみてはどうか。」

成長戦略会議の実行計画案も経済財政諮問会議の新浪議員の発言も、ともに「経営人材の育成」のために「診断士の裾野を広げる」ことを目指している。「診断士の裾野を広げる」とは「試験の難易度を下げて合格者=診断士の数を増やす」ということだ。

現在、中小企業診断士は約2万7千人で、税理士7万9千人、弁護士4万人と比べてかなり少ない。しかも数少ない診断士の7割が企業に勤務する企業内診断士で、資格を取ったら最後、ほとんど活動していない。診断士はよく「大手企業サラリーマンの箔付け資格」と揶揄される。今後、診断士の数を増やすとともに、実質的に活動することを促す制度改革が進められることになる。

診断士の増加には、様々なメリット・デメリットがある。メリットは、経営人材の育成が進むこと、中小企業への公的支援が充実することである。一方デメリットは、診断士の質が低下すること、地方で食えない診断士が増えることである(詳しくは、東洋経済オンラインの拙稿「食えない中小企業診断士が今後増加する理由」参照)。

この件について診断士仲間と話すと、「アホばっかり増やしてどうするの?」「今でも診断士は満足に食えていない。診断士の貧困が社会問題化する」といった否定的な見解を耳にすることが多い。「悪貨は良貨を駆逐する」というわけだ。

しかし、個人的には「質量転化の法則(量をこなすと質が上がる)」で、増加した診断士が幅広い分野で活動し、コンサルティングが広く普及し、結果的に診断士の地位が向上するだろうと、楽観的に想像している。総数拡大がほぼ決まった以上、デメリットを指摘するよりも、良い結果をもたらすようにどう制度改革を進めるかを考えるべきだろう。

ここで一つ残念なのは、菅義偉首相、成長戦略会議のデービッド・アトキンソン、経済財政諮問会議の新浪剛史といった人たちが、中小企業経営の現場と関係ないところで議論を進めていることだ。もっと現場で活動する診断士や診断士から支援を受けている中小企業の声を拾った方が、より良い改革になるのではないだろうか。

診断士も「お上が決めることだから」と政府の検討・決定を待つだけでなく、現場のことを最もよく知る当事者として「診断士制度をこう変えるべきだ」と提言していくべきだ。私も、微力ながら診断士制度の改革に提言していきたいと思っている。

 

(2020年12月7日、日沖健)