企業経営で使われるフレームワークの中で最も有名なのが、SWOT分析。SWOTはStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字である。企業の内外の状況をSWOT分析し、「強みを生かす」「弱みを克服する」「機会を捉える」「脅威に対処する」というアプローチで戦略・計画を作る。
SWOTは有名だが、あまり上手く使いこなせていないのが実態だ。今週から2回に渡って、SWOTを巡る問題点について考えてみよう。
SWOTの中で日本企業がとくに重視しているのがStrength(強み)である。アメリカ企業がフロンティア精神で機動的にOpportunity(機会)を捉えることを重視するのに対し、日本企業は組織内部の強みを中心に事業を展開する。企業経営だけではない。個人のキャリアについても、キャリアカウンセラーは必ず「冷静に自己分析し、自分の強みを生かせることを仕事にしましょう」とアドバイスする。
ただ、この強みというのが曲者だ。強みに関して、いくつか重大な誤解があるように思う。
第1に、自社・自分の中での「比較的マシなところ」を強みと捉えるケースがある。「コスト競争力がないのが、わが社の弱みだ。それに比べて品質はそんなに酷い状態ではないから強みだ」という具合だ。自社内の相対的な評価ではなく、競合他社に比べて強いか、顧客から見て価値があるか、が問題だ。「強い」と思っても他社比で劣るなら強みではないし、「弱い」と思っても他社比で勝っているなら強みである。
第2に、強みを不変のものと捉えてしまうことがある。商学部で4年間勉強して税理士の資格を取ったら、強みと言えば強みだ。しかし、会社に入ったら1年足らずで学生時代の4年分以上のことを学び、新たな経験をしてスキルの幅が広がっていく。勉強熱心な人ほど、「俺の強みは○○だ」と固定的に考えず、色々な学習・経験をして、強みを伸ばし、広げて欲しいものである。
第3に、経験の価値を軽視してしまうことだ。大学で心理学を勉強し、産業カウンセラーの資格を持っているカウンセラーのAさん。高卒で資格もないが、マックのバイトを10年やって、バイトリーダーとして後輩の悩みを聞いてきたというカウンセラーのBさん。私が悩みごとを相談するなら、断然Bさんだ。学位・資格があるかどうかよりも、実際に経験しているかどうかが大切である。
私事だが、私は企業勤務時代に財務部門にいたので、資金調達など財務が強みだと思っていた。しかし、コンサルタントとして独立してみると、金融機関の出身者など私よりもはるかに財務に詳しい人がウヨウヨいた。自分にとって、財務は強みでも何でもないことがわかった。
一方、ある会社の研修で自分で書いたケースを使って演習をしたところ、教育担当者から「日沖さんはケースを書けるですか!」と驚かれた。その会社で研修を担当していた講師の大半が、慶応・一橋・ハーバードの所蔵ケースを使って演習をしていたとのことだ。それまで私は「自分の研修で使うケースを自分で書くのは当たり前でしょ」と思っていたが、ケースを書けることが自分の強みだと知った。
このように、自分ではなかなか強みに気づかないものだ。強みについて思い込みを捨てて、色々と経験の幅を広げるとともに、他人の評価・コメントに耳を傾けると良いだろう。
(2020年11月16日、日沖健)