GoToトラベルと政府・小池都知事の政争

新型コロナウイルスで苦境に立つ観光関連産業を支援する「GoToトラベル」事業が722日からスタートする。国土交通省は18日、東京都で新規感染者数が最多を更新していることを受けて、予約済みの分も含め、東京都在住者と都内への旅行は補助対象から除外すると発表した。

GoToトラベルに対しては、当初から「感染拡大を助長するのか」「この時期にやるべきことなのか」「救うべきは観光業だけではないはずだ」「いまどき旅行できるような富裕層の旅行代金を税金で補助するのは不公平」といった批判が噴出していた。そこへスタート間際の運用方針の転換で、観光関連産業の現場や自治体は大混乱している。

個人的には、そもそも国が補助金で特定の産業を支援することに反対だが、補助金を是とするなら、しっかり感染対策をした上でGoToトラベルを実施するべきだと思う。以下、実施するべき理由を上記の批判に答える形で確認しよう。

    「感染拡大を助長するのか」→政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が「旅行自体が感染を起こす事はない」とコメントしている通り、旅行先で3密回避・マスク着用など対策に努めれば、旅行が原因で感染リスクが高まることはないだろう。感染リスクを懸念する人は、現在の東京などでの感染増と旅行の影響を混同している。

    「この時期にやるべきことなのか」→4月以降の緊急事態宣言での(事実上の)旅行禁止から2カ月経ち、観光関連産業の苦境はいよいよ深刻になっている。業者の資金繰りを考えると、やるなら早い方が良い。夏の観光シーズンを迎える今を逃すべきではない。

    「救うべきは観光業だけではないはずだ」→ならば観光業だけでなく、飲食業など他の産業にも支援を広げれば良い(という発想は好きではないが)。苦境に立つ観光関連産業からまず着手するというのは納得できる。

   いまどき旅行できるような富裕層の旅行代金を税金で補助するのは不公平」→今回のGoToトラベルは、補助金を呼び水にして富裕層の旅行需要を引き出し、地方でたくさんお金を使ってもらおうという狙いだ。不公平なのは事実だが、凍り付いた都市部富裕層のお金を地方に回すという点で、合理的な施策だ。

ところで、それよりも今回の混乱で気になるのは、東京都の除外を巡って政府と小池百合子都知事が感情的に対立していることだ。その伏線として、最近の感染者急増について、菅義偉官房長官が7月11日に「東京問題」と発言し、小池知事が反発した経緯がある。

これを含めて最近、コロナ対策を巡る政府と小池都知事の主導権争いが激化し、政争に発展しつつあるのは、残念なことだ。

安倍政権は、前回の緊急事態宣言で経済が落ち込んだ点もさることながら、対策の中心が都道府県に移管されたことに強い危機感を覚えた。4月から5月にかけて、小池都知事や吉村洋文大阪府知事が脚光を浴びる一方、安倍首相や菅官房長官・西村担当大臣の陰が薄く、すっかり主役が交代した。

とくに小池都知事が2017年の「希望の党」など国政進出の野心を見せてきたことから、安倍政権としては、衆議院解散をにらんで、再び緊急事態宣言を出して小池都知事に主導権を譲り渡すのだけは何としてでも阻止したい、と考えているのだろう。

一方の小池都知事も、3月24日にオリンピック延期が決まるまで、また7月6日に都知事選が終わるまで、コロナ対策をほとんど打ち出さなかった。都知事選前のインタビューで、任期途中の国政進出を嘘でも否定しなかった。都民の安全・健康や経済再生よりも政治権力に関心が向いているのは明らかだ。

過疎県・過疎地域にまで過剰対応を促してしまう緊急事態宣言は愚の骨頂で、メリハリを付けた対応が必要だ。ただ、いずれにせよ政府と東京都・各府県が緊密に連携する必要があることは、言うまでもない。

安倍首相は衆議院解散を、小池都知事は国政進出の野望を封印し、コロナ対策と経済再生のために協力し、全力を尽くして欲しいものである。

 

(2020年7月20日、日沖健)