日本電産・永守社長の「転向」は残念

 

先日、日本電産の永守重信社長が日本経済新聞社とのインタビューで、以下のように述べ、利益至上主義からの決別を表明した。「利益を追求するだけでなく、自然と共存する考え方に変えるべきだ」「50年、自分の手法がすべて正しいと思って経営してきた。だが今回、それは間違っていた。〔中略〕収益が一時的に落ちても、社員が幸せを感じる働きやすい会社にする。」

 

永守社長と言えば、1973年に日本電産を創業し、ゼロから一代で1兆円企業を作り上げた、立志伝中の経営者である。ここまで利益至上主義・モーレツ主義で半世紀近くに渡って成功してきたので、突然の方針転換は、今回の新型コロナウイルスが経営者人生で最大の危機だということだろう。

 

永守社長の方針転換は、メディアやネット世論で「さすが永守社長、危機に直面して決断が早い!」などと好評なようである。しかし、個人的には、かなり残念な印象を持っている。

 

まず、「企業の利益」と「社員の幸せ」が対立する場面で後者を優先するというのは、現代の企業ではごく当たり前のことではないか。タイミング的に世相を敏感に反映しているし、モーレツ社長の心変わりに「おや?」とは思うが、内容的にはそこらの居酒屋で中小企業経営者が熱く語っていることだ。永守社長くらいの名経営者なら、別にコロナがなくてもさっさと考えを変えて欲しかったところである。

 

それよりも残念なのは、今回、永守社長がM&Aについて後ろ向きな姿勢に転じたことだ。日本電産は、M&Aで大失敗を繰り返してきた日本にあって、屈指のM&A巧者として知られる。これまでコパル・三協精機など経営難に陥った同業他社を次々と買収し、立て直し、成長の原動力にしてきた。ところが今回、永守社長はM&Aについて、「今はキャッシュ・イズ・キング。〔中略〕先が見えるまで安易な投資はしない方がいい」と語る。

 

かつて永守社長は、M&A成功の秘訣について、日本電産側から「ぜひ御社を買いたい!」と申し出て高値掴みをするのではなく、経営難に陥った相手が日本電産に「ぜひわが社を買ってください!」と助けを求めてきたら安く買い叩くことだと説明している。なるほど、まったく以て理にかなったやり方だ。

 

とすれば、新型コロナウイルスの影響で多くの企業が苦境に陥っている現在は、有望な企業を買い叩く絶好のチャンスであろう。日本電産が創業した1973年のオイルショック以来47年ぶりに訪れた絶好のM&Aのチャンスに、逆にM&Aに背を向けるというのは、いったいどういう考えだろうか。

 

永守社長の話はこれくらいにして、未曾有の危機を迎えた日本企業の対応が気になるところだ。いま世間では、東芝のように全社休業に入った企業が賞賛されているが、この絶好のビジネスチャンスにボーッとしている場合だろうか。従業員の健康と事業の継続が確保できたなら、以下のような前向きな活動を推進したいところだ。

 

ü  株価が下がった優良企業を買収する。とくに、業種ではIT、地域ではアジア。

 

ü  優秀な人材を採用する。とくにAI・金融など先端分野の技術者と経営人材。

 

ü  新規事業を作り出す。とくに非接触型のサービス。

 

 今は、苦境に立たされる企業ばかりが報道されているが、7割以上の企業は、問題なく事業を継続できるはずだ。今こそ、「ピンチはチャンス」を実践し、将来の発展の礎を築いて欲しいものである。

 

<後半の部分の詳しい解説は、近日、「東洋経済オンライン」に掲載する予定>

 

(2020年4月27日、日沖健)