新型コロナウイルスの感染拡大が働く人にさまざまな悪影響を及ぼしている。中でも苦境に立たされているのが、パート・アルバイト・派遣労働者など非正規労働者である。
危機を受けて多くの企業がリストラに着手し、非正規労働者が真っ先にそのターゲットになっている。クビが繋がっても、仕事量・収入が減り始めている。連合総合生活開発研究所が先週公表した調査結果によると、パートの49.8%、アルバイトの56.8%、派遣労働者の52.7%が「収入が減った」と回答した。またネットカフェが休業に入ったことから、仕事だけでなく生活の場すら失われた非正規労働者の窮状が報じれられている。
一方、正社員は、今後の賃下げが懸念されるものの、概ね雇用は守られている。こうした対照から、就活を控えた学生や非正規労働者の間では、「働くなら絶対に正社員で!」という要望、正社員志向が高まっている。国もこうした国民の声を受けて、派遣労働法の改正やキャリアアップ助成金など、非正規労働者を正社員に転換する政策を推進している。
しかし、非正規労働者が希望し、国が後押ししているからといって、正社員への転換が進むものだろうか。
雇う側の企業から見ると、今回のように事業活動がストップしても首を切れず、給料を払い続けなければならない正社員は、やはり大きな重荷だ。今回の事態を受けて、企業は正社員の採用に慎重になり、非正規労働者の雇用あるいはフリーランサーとの契約を増やそうとするだろう。結果的に、正社員は減り、非正規労働者がますます増えることになる。
ならば企業に正社員の雇用を増やすようさらに圧力を掛けよう、と国は躍起になるわけだが、これはいかがなものか。グローバル化の時代に、過大な負担を強いられた企業は、足かせが多い割に儲からない日本を捨てて、海外に脱出してしまう。これまでは製造機能の海外移転が中心だったが、本社機能も移転し、日本の拠点は「シンガポールにあるアジア統括本部が所管する東京営業所」とかになり下がる。
企業に海外逃亡されて日本から雇用がなくなっては、元も子もない。将来国は、非正規労働者と正社員の双方について、抜本的な政策転換を迫られるだろう。
ここから先は、私の予想。まず、政府は基本姿勢として、非正規労働者の増加と正社員の減少を容認する。そして、企業が正社員を雇用する負担を和らげるため、(経団連などが主張しているように)現在事実上禁止されている正社員の解雇を緩和し、解雇の金銭による解決を認める。また、経費控除・退職金の税制など優遇されている正社員の待遇を引き下げる。
ただ、それだけだと日本中が貧しい非正規労働者ばかりになってしまうので、現在、税制・社会保障など差別されている非正規労働者の待遇を引き上げる。
つまり、非正規雇用の待遇が上がり、正社員の雇用の安定性や待遇が下がり、非正規労働者だから不利、正社員だから有利ということはなくなる。双方の差異や垣根が小さくなり、正社員は“正しい”、非正規労働者は“正しくない”という考え方もなくなる。5年後には、正社員・非正規労働者という区分も用語も使わなくなり、日本から非正規労働者はいなくなる…。
となるかどうかは、現在の非正規労働者の惨状にだけ目を向けるのではなく、その先の展開を長い目で考えるかどうかにかかっている。正社員の特権を維持し、ますます減る正社員のイスを巡って国民が争うのが本当に良いことなのか、新型コロナウイルスをきっかけに、是非考えてみたいものである。
(2020年4月20日、日沖健)