新型コロナウイルスに関する緊急経済対策の修正・付加的提言

                                              2020 年4月7 日
               新型コロナウイルスに関する緊急経済対策の修正・付加的提言

 

 

 提言の目的は、政府の「収入減による困窮者への現金支給」政策を、よりスピーディーに適切に行 うための修正・付加のアイデアを示すことである。提言は2つある。1 つめは「審査を簡素化した現金 給付と、源泉徴収・課税所得申告時での課税調整」であり、2つ目は、「現金支給において、例外を除 き、電子マネーを利用」である。これらは独立しても採用可能だが、同時実施が効果的と考える。

 

提言1:収入減証拠書類の簡易な審査での現金給付と、源泉徴収・課税所得申告時の課税調整

 「収入減による困窮者への現金支援」は、本来、困窮度・緊急性が高い弱者をピンポイントで支援 するのが好ましい。一方で、収入減の証明は公正さを担保するためには必要だが精査しかつ早期・正 確な審査をすることは容易ではなく、時間もかかる。従って、現在の政策通り、給与明細や手書きの 申請内容など証拠書類は用意いただくが、「その審査を簡易化し、確認程度に抑えて」現金支給申請を 受け付ける。これを実現するために、この収入を課税所得として扱い、今年の年末調整や来年の確定 申告にて調整する。なお支給対象者は、所得が下がらない公務員等給与所得者、年金受給者、失業保 険者、生活保護者等を除いた世帯(従って、申請時にこの確認は必要)とする。効果は、収入減証拠書 類の準備を簡素化し申請を受け付けることで、申告者側の申告における敷居を下げて手間を減らし、 自治体側は可否検討の手間が減り支給可否審査における恣意性を下げられる。こうして双方の負担を 減らし、必要な方々に速やかに現金を届けられる。また、この簡素化で郵送・インターネット申請が 可能になれば、市町村窓口が 3 密にならず感染リスクも下がる。審査の簡素化により、世帯毎の支給 は変えずに、1 人10 万円分の支給も可能になると考える。住民票や「給与所得者の扶養控除等(異動) 申告書」等の記載内容(給与所得者の場合)の提出により、世帯の構成に応じた支給は可能である。

 支給後には、その収入を課税所得とし、年末調整や確定申告を行う。その際の所得は、支給時ない しその後に届けた世帯の構成情報に基づいて計算する。例えば、夫婦 2 名の世帯は、課税所得がゼロ から250万円(例えば住民税非課税世帯)の場合は支給分の課税無し、250~400万円の世帯は、当該 年度の課税所得が前年度より支給分以上減少していれば支給分についての課税無し、400 万円以上の 場合には通常の課税か支給分はすべて課税とする。夫婦 2 名プラス子供 1 名の世帯は、課税所得の基 準所得幅を、0~300万円、300~450万円など、家族構成に合わせて設定することは難しくない。

 なお現金支給方法は、今回は、窓口申請時点でも後日でも現金貨幣での授受が危険で手間がかかる ため、原則は口座振込で例外時に現金貨幣支給となるだろうが、速やかに提言2の実現が望まれる。

 

提言2:現金支給において、例外を除き、電子マネーを利用する(今回は困難でも、今後必要)

 現金支給において、現金貨幣のみしか使えないという例外を除き、プリペイド式やポストペイ式を 含む電子マネーを利用して現金を支給する。これは米国のSNAP制度(注1)で15年以上使われてい るEBTカード(注2)と同様の方法で実現可能性が高い(注3)。また飢餓と栄養不良をなくす目的を 持つ国連WFP(World Food Programme)は、2013年から食料が購入できるEカードという電子マネ ーをレバノンのシリア難民に配布しており、これも同様な仕組みである(注4)。

 このアプローチの目的は、一度この仕組みが確立すれば、支給の場合の確認手続きや支給手続きを 効率化できる可能性が高いためである。またSNAPでは「貧窮した世帯に対し7 日以内に」(注4)支 給ができているため、十分に迅速に対応できる。今後、今回の現金支給だけでなく、今後も支給を継 続する可能性があり、その際にも効率的な政策実行が容易になる。また重要なポイントは、給付され た資金が生活を支えるという目的外に使われることを避けるためでもある。EBTカードと同様に、酒 やタバコ、ギャンブルといった目的に使えない用途制限を設ける。可能であれば電子マネーの使用期 限ないし減価の仕組みを設け、一定期間における利用を促すことで、この資金を直接的に貯金にまわ す可能性を減らし、より確実に一定期間中に使われるようにする。さらには、EBPM(注6)の観点か ら、データを電子的に追跡することが容易になり、政策の検証がしやすくなる。 

 

(注1)SNAPについて 「SNAP(Supplemental Nutrition Assistance Program:補充的栄養支援プログラム)とは,米国農務省 の食品栄養サービス局が提供している栄養補助プログラムの一つで,以前は,フード・スタンプ・プ ログラムと呼ばれていたものであり,低所得者で有資格の家庭が栄養的に適切な低コストの食事を摂 ることを補助し,食品の購買力を高めるために主として計画されているものである」(鈴木英治,2017)
 
(注2)EBTカードについて 米国では低所得者向けの支援制度のなかにフードスタンプがある。しかし不正利用や転売、そして 手間とコスト問題があったため、それを解消するためにスタンプのプラスチックデビットカード化で あった。これをElectric Benefit Transfer(EBT)カードと呼ぶ。使用金額は国または州の口座から引き 落とし(デビット)され、酒、タバコ、ギャンブル等には使えない。また、消費税の対象外とされている。 ただし、使える店とのデビットカード取扱い契約が必要である。2009年よりSNAPの一環として組み 込まれた。このEBTにより、制度目的にそぐわない使用制限が可能になり、毎月のスタンプ送付コス トと手間を解消できた。
 
(注3)「SNAPは,申請プロセスについて規則上,期限が設けられている。州は,貧窮した世帯に対 し 7 日以内に(迅速処理サービス),その他の有資格世帯に対しては 30 日以内に,手当を支給しなく てはならない。(鈴木英治,2017)
 
(注4)国連WFPの2013 年のEカードプログラム開始についての記事 https://www.wfp.org/news/wfp-launches-e-cards-syrian-refugees-lebanonmastercard%E2%80%99s-support (アクセス日2020/4/5) 国連WFPの2018年のEカードプログラムについての関連関連記事 https://insight.wfp.org/we-have-nothing-except-the-e-card-11c8d536822c(アクセス日同上)
 
(注5)「2000 年代初頭には,食料を購入するスタンプは,EBTカードにとって替わられた。EBTカ ードは,フード・スタンプ・プログラムの不正を削減し,プログラム参加者の使い勝手を良くし,フー ド・スタンプで購入する際の屈辱感を軽減することに役立っている」(鈴木英治,2017)
 
(注6)EBPM(Evidence Based Policy Making)について 「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)とは、政策の企画 をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス) に基づくものとすることです。」「内閣府におけるEBPMへの取組」Webサイト https://www.cao.go.jp/others/kichou/ebpm/ebpm.html(アクセス日2020/4/5)
 
参考文献

・鈴木栄次(2017)「米国におけるSNAP(補充的栄養支援プログラム)の制度概要及びその実施状況 等について」,『プロジェクト研究[主要国農業戦略横断・総合]研究資料 第2号 平成28 年度カ ントリーレポート:米国(農業支援政策,SNAP制度),EU(価格所得政策とCAP簡素化,酪農, 農業リスク管理,フランス),韓国,台湾』、農林水産政策研究所 https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/28cr02.html(アクセス日2020/4/5)
 
 〔提言者〕(50音順) 

伊藤武志(大阪大学 社会ソリューションイニシアティブ・教授) 

藤解和尚(藤解コンサルティング代表、認定NPO法人国際子ども権利センター・アドバイザー) 

日沖健(日沖コンサルティング事務所・代表、中小企業診断士)
 
〔賛同者〕(50音順) 

渋沢健(シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表、コモンズ投信株式会社取締役会⾧) 

鈴木和宏(株式会社eumo・代表取締役) 

西原(廣瀨)文乃(立教大学経営学部・准教授)

三木貴穂(株式会社ベネッセホールディングス) 

若山健彦(ミナトホールディングス株式会社・代表取締役会⾧兼社⾧)
 
なお、提言者、賛同者は、自身の個人的見解や意見として提言・賛同しており、所属する組織の公式 な見解や意見を表明するものではありません。
 
以 上