先週「お金持ちになりたくない日本人」という文章を掲載したところ、色々な意見をいただいた。先週の文章はやや説明不足のところがあったので、今週はいただいた意見に答える形で補足しよう。
まず、「お金で幸せは買えない」「お金持ちが幸せとは限らない」という意見をいただいた。この指摘はまったく以て正しい。そもそも幸せは感じ方の問題であり、お金のような物質的な満足と家族愛のような精神的な満足を比べたら、精神的な満足の方が大切だと感じる人の方が多いだろう。したがって多くの人にとって、お金持ちになることと幸せになることは別物である。
ただ、逆に貧乏なら幸せかというと、そうではないだろう。お金がないと、家計の出費などを巡って夫婦喧嘩が絶えない。好きなことを我慢しなければならず、ストレスがたまる。食生活が貧弱で、不健康になりやすい(貧乏→ジャンクフードを食べる→肥満→不健康という因果関係が確かめられている)。一発逆転を狙って、ギャンブル依存症になりやすい。
日本人はよく「つつましく、家族愛のある、平穏無事な生活」という幸福の形を思い描くが、これは極めてハードルが高いことなのだ。お金なしに解決できない難問に直面する貧乏人よりも、難問に頭を悩ませず、色々な体験をすることができるお金持ちの方が、幸せになれる確率ははるかに高いだろう(あくまで確率論だが)。
もう一つよく言われたのは、「今の生活に満足し、幸せだ。がむしゃらに頑張ってお金持ちになる必要性を感じない」という意見だ。この意見も至極当然だ。今が幸せで、将来の心配がないなら、多くの人にとって幸福そのものではないお金のためにあくせく働く必要はない。
ただ、ここで将来のことを考える必要がある。今後、日本の人口は減っていく。とくに生産年齢人口(15歳から64歳)は2015年から2060年に42%も激減する。人口が減っても国の借金は減らないので、財政難から増税や福祉サービス削減が行われる。総人口は減るのに高齢者の数は減らない(むしろ2015年から2060年では2%増)ので、医療・介護の負担が現役世代に重くのしかかる。
余命が少ない後期高齢者なら「今の生活に満足」で何ら問題ない。しかし、今後数十年生きる現役世代にとって、あるいは自分の子や孫の世代のことを考えると、今が良いから満足とは言えないはずだ。大金持ちにならないまでも、収入を増やすことを真剣に考えないと、今の生活を維持することすら極めて困難だ。
以上をまとめるとこうだ。(多くの)人は精神的な満足度を求めるので、お金持ちになっても幸せにはなれない。しかし、お金がないと色々な困難に直面し、幸せにはなりにくい。今後どんどん日本の家計が苦しくなることを踏まえると、幸せになる確率を高めたいなら、お金を儲ける方法を真剣に考える必要がある―。
お金は幸せになるための重要な手段だ。手段であるはずのお金を目的と取り違えて、お金持ちになることを否定する日本人が多いのは、残念なことである。また、お金というだけで議論そのものを避けるのも、日本人特有の好ましくない傾向だ。
日本人は幸福について語るとき、表情が幸福ではない。暗い顔で「カネがない、夢もやる気もない。誰がこんな世の中にしたんだ…」と愚痴っぽく語ることが多く、明るい顔で「こういうことをして幸せになりたい!」と語る人は少ない。お金と真剣に向き合い、明るく幸福を語り、暮らしたいものである。
(2019年11月25日、日沖健)