ワールドカップから3つの教訓

 

ラグビー・ワールドカップ日本大会が終わった。3度目の優勝を果たした南アフリカ代表や史上初のベスト8入りを果たした日本代表を始め、世界最高の戦いを存分に堪能することができた。また、試合会場外での国際交流など、国際スポーツイベントの素晴らしさを体感することができた。

 

コンサルタントという立場で、今大会から3つの大切なことを学んだ。

 

1つ目は、フォーカス(集中)することだ。

 

昨年まで日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフは、代表候補選手を強化合宿とスーパーラグビーのサンウルブズへの参加という二本立てで強化してきた。しかし、今年からサンウルブズへの主力選手への派遣をやめ、「スーパーラグビーをないがしろにしている」という批判を受け止め、強化合宿にすべてを賭けた。日本は他の強豪国と比べて選手層が薄いので、スーパーラグビーと強化合宿の二兎を追うのは得策ではないと判断したのだろう。

 

ビジネスでも、一つのことに賭けて大外しするリスクを避けるため、色々なことに手を出し、結果的に中途半端な状態になってしまうことがある。経営資源の乏しい中堅・中小企業は、やるべきことをフォーカスするべきだ。もちろん、フォーカスして大失敗した場合、迅速かつ柔軟に軌道修正するという難しさはあるのだが。

 

2つ目は、組織の勢いだ。

 

日本が所属したAグループは、アイルランドが抜きん出た存在で、日本・スコットランド・サモアの3チームが予選突破の2つ目のイスを争うと見られていた。そのため、ファンや専門家の間では、アイルランド戦は主力を温存し、サモアやスコットランドとの決戦に全力投入するべきだという意見があった。しかし、ジョセフは、アイルランドに全力で立ち向かって、見事に勝った。難敵に勝ってチームに勢いが付いて、無傷の4連勝で予選突破した。

 

スポーツだけでなく組織で何かに取り組むとき、もちろん技術・戦術も大切だが、組織の勢いもさらに大切だ。勢いが付くと、100%以上の力を発揮することができる。意思決定するときには、損得の勘定だけでなく、組織を勢い付かせるのか、勢いを下げてしまうのかも慎重に見極める必要がある。

 

3つ目は、緊急事態への事前の備えだ。

 

台風19号の影響で、震災復興のシンボルとなった釜石での試合など予選リーグ3試合が中止になった。予選突破を賭けた日本対スコットランドの大一番は、当日まで開催の可否で揺れ動いた。試合ができなかったチームに申し訳ない限りで、「大会は大成功!」と声高に言うのは気が引ける(選手や海外ファンからの高評価は嬉しいが)。台風の時期に大会を開催するからには、代替地での開催を事前に検討しておくべきではなかったか。

 

いざ緊急事態が発生した時、迅速かつ的確に対応するのはなかなか困難だ。事前にあらゆることを想定し、備えておく必要がある。企業でも近年BCPBusiness Contunuitiy Plan事業継続計画)が注目されているが、今大会を教訓に、企業や自治体は緊急事態への事前の備えを強化して欲しいものである。

 

ところで、今大会を通して個人的に最も感動したのは、カナダ代表である。台風19号の影響で釜石での予選最終戦が中止になったカナダ代表の選手が居残って泥除去清掃の災害ボランティアをしたことは、被災された住民だけでなく世界に感動を呼んだ。ラグビー本来のジェントルマンシップやアマチュア精神がカナダ代表に脈々と息づいているようだ。

 

カナダは、1991年の第2回大会でベスト8入りした古豪だが、その後のプロ化の波に乗り遅れ、近年は本大会出場がやっとというレベルに低迷している。一方、ラグビーの母国・イングランドは、プロ化に成功し強豪国の地位を維持しているが、一昨日の表彰式でメダルの受け取りを拒否し、世界から批判を浴びている。カナダとイングランドを比べると、競技力向上とアマチュア精神の喪失というプロ化の正負の影響について考えさせられる。

 

来年はいよいよ東京オリンピック。今回の教訓や反省を生かして、素晴らしい大会にしたいものである。

 

(2019年11月4日、日沖健)