好きなことをするのがコンサルタント成功のカギ

 

先週の「実績を盛るコンサルタント」に続いて、コンサルタントに関する話題。

 

中小企業大学校の中小企業診断士養成課程の受講生や知り合いの企業内診断士からコンサルタントとして独立開業をして成功するコツをよく聞かれる。色々なポイントがある中で「一つだけ」と言われたら、旧知の畑中修司先生が言っている、「時間が惜しくないと思えること」の大切さを強調している。「時間を忘れて夢中になれること」、あるいはもっと平たく「好きなこと」と言い代えることができようか。

 

コンサルタントが知識レベルの低いクライアント(顧客)を相手にする場合、さほど綿密に準備しなくても、自分が持っている知識を披露するだけで、そこそこのアドバイスができ、顧客も満足してくれる。いわゆる「知識の切り売り」である。しかし、ネットでわかる程度の情報に高い金を払う間抜けな顧客はそんなにいないので、「知識の切り売り」を続けるコンサルタントは、やがて顧客に見透かされて、仕事が先細りになっていく。

 

たとえば、明日の早朝に顧客へのプレゼンテーションが予定されており、いま深夜0時。プレゼン資料は一通りできているのだが、「海外の事例を調べて、解決策の期待効果をもう少しち密に試算しようかな」と思い立った。ここで「時間が惜しい」と思って眠りにつく人は、「知識の切り売り」になってしまう。

 

一方、この場面で眠気を忘れてウキウキしながら思い立ったことにトコトン取り組む人がいる。自分の好きなことをしている場合だ。このように、顧客の知識レベルに関わらずもう一歩深い事情を調べたり、問題を突き詰めて考えることを厭わないコンサルタントは、ネットでは得られない深みのあるアドバイスをすることができる。本物のプロとして信頼され、評判が上がり、成功することができる。

 

コンサルタントとして独立開業する動機は、「サラリーマン生活が嫌になった」「何だかカッコ良さそう」「社会に貢献できる」など色々あって良い。ただ、ベースに「ファッションのことがとにかく好きだ」といったこだわりの領域がないと、顧客から信頼され、長くコンサルタントとして活動し続けるのは難しい。したがって、独立開業を希望する人には、「時間が惜しくないと思えること」があるかどうかを確認するよう勧めている。

 

では、コンサルタントになりたいが、「時間が惜しくないと思えること」がない場合はどうすれば良いのか。この場合、色んな分野に挑戦し、試行錯誤して「これだ」というものを探すべきだ。アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、「素晴らしい仕事をするためには、自分のやっていることを好きにならなくてはいけない。まだそれを見つけていないのなら、探すのをやめてはいけない」という言葉を残している。

 

では、試行錯誤をしたが「時間が惜しくないと思えること」が見つからなかった場合や「時間が惜しくないと思えること」に取り組んでいるのに一向にビジネスが上向かない場合はどうするべきか。これはもう、コンサルタントに向いていないので、諦めた方が良い。

 

以上、コンサルタントというややマイナーな職業の話をしたが、より難しいのは、会社員・公務員だろう。会社員や公務員は、研究開発が好きで入社したのに営業の仕事を命じられた、ということが日常茶飯事だ。とくに大企業・中央官庁では転勤・異動が頻繫にあり、自分の好きなことをずっと仕事にするのは困難だ。

 

では、大企業の社員や国家公務員はどうすれば良いのか。転勤・異動が少ない中小企業や地方自治体・外郭団体に転勤するのは一法だが、現実的な方法は今担当している仕事を好きになることだ。一見つまらなそうに思える仕事でも、上司・同僚から「助かったよ」と言ってもらったり、お客様から感謝されたりして、好きになるという可能性はあるはずだ。

 

なお、二十代とか若い世代は、その時点の限られた人生経験・知識から好きなことを狭く捉えてしまうことがないよう注意したい。「大学で簿記の講義を取って、興味がわいて簿記3級を取った。会社に入ったら、この経験・知識を生かして経理の専門家になりたい」では、せっかく大きく広がる将来の可能性を排除してしまうことになる。クランボルツの計画的偶発性理論の通り、色々なことに挑戦し、経験の幅を広げて、好きなことを探すと良い。

 

好きなことを仕事するというと、「わがまま」「きれいごと」と受け止める向きもあるが、良い仕事をし、成功する上で必須の条件だ。好きなことを仕事にすることに、とことんこだわりたいものである。

 

(2019年9月23日、日沖健)